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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・権謀録 1

晴奈の話、90話目。
教団の神様、また登場。
 
 
 

1.
「どけ、そこの木炭!」

 目の前にいる「狼」からの、いきなりの罵倒。男は少し、戸惑ったような挙動を見せる。だが拒否する理由は無いので、男は素直に横へ退く。

「フン」

 その黒い狼獣人は肩を怒らせ、男の前を通る。

「一つ聞く」「……ああ?」

 問いかけた男に対し、罵倒した「狼」、ウィルバーは横柄な態度で返す。

「余程いらついていると見えるが、それを俺に振る理由があるのか?」

「知るか、ボケ!」

 ウィルバーは男を押しのけ、半ば吠えるように怒鳴りつけて去っていく。男は真っ黒な外套に付いた手形をはたき落とし、ポツリとつぶやいた。

「なるほど、な」

 

「ウィリアム。お前が俺を、遠い央北からわざわざ呼んだ理由をつい先刻、把握した」

「は……」

 黒い男は目の前にいる、いかにも宗教家と言った風体の狼獣人に向かって、足を組んだまま話を始める。

「大方、あの『差し歯』の小僧はお前のせがれだろう?」

 男よりはるかに老けた容貌の、一見こちらの方が年長者と思われる「狼」が、へりくだったしぐさで男にコーヒーを注ぎながら、質問に応える。

「お気付きでしたか」

「何と言ったか――ああ、そうそう。ウィルマ、だったか――お前の先祖にそっくりだ。その父親は、本当にいい奴だったんだがな」

「は、は……。開祖からご存知だと、家人の話をするのは気恥ずかしくて、どうも……」

「ククク……。何故ウィルソン家は、『極端』なのだろうな」

 男は「狼」の注いだコーヒーをくい、と飲み込む。

「極端、と言うと?」

「大体、3タイプに分かれている。

 一つ、お前のように、素直で親しみの持てる奴。

 一つ、ワーナー、それと最近では、ワルラスだったか――狡猾で、打算的な奴。

 そしてお前のせがれのように、粗暴でやかましい奴。……何年経っても、この手の輩は相手が面倒でたまらん」

 男はまた、鳥のようにクク、と笑う。

「本当に、不肖のせがれでして……」

 平身低頭し、恥ずかしさを紛らわせていた「狼」は、そこで男のカップが空になっていたことに気付いた。

「あ、タイカ様。お代わりは、如何でしょう?」

「ああ、ぜひいただこう」

 黒い男――克大火はニヤリと笑って、カップを差し出した。

「もし開祖が1番目のタイプで無かったら、俺はこうしてここで、うまいコーヒーを飲むことは無かっただろうな、クク」

 

 

 

 516年初めの黄海防衛戦に端を発した央南抗黒戦争は、焔流の実力とエルスの優れた戦略、黒炎教団の豊富な資産と人員が拮抗し合い、半年が過ぎた516年夏になってもなお、続いていた。

 焔流剣士たちの実力、またエルスの手練手管をもってしても、この膠着状態から抜けられずにいたため、エルスと晴奈、紫明の3人は黄屋敷にて、打開策の検討を行っていた。

「やっぱり、こちら側の一番のネックは、人員の少なさにある。みんな、かなり疲労の色が濃い」

「そんなことは無いはずだ。我々は鍛え方が……」「そう言う問題じゃないよ、セイナ」

 卓から半立ちになった晴奈を、エルスが抑える。

「若手や壮年の剣士たちの中には、ほとんど身動きできなくなっている人もいるらしいじゃないか。この半年ほとんど、休むことなく戦い続けているんだからね。

 言い方は少し悪いけど、『手駒』がいない。教団の下っ端みたいに、いわゆる『歩』の役割をしてくれる人がいないから、将や班長クラスの人間を、歩兵と兼用で使っている状態だ。人使いの荒い今の状況じゃ、優秀な人材もいずれ潰す羽目になって、押し切られてしまうよ」

「ふむ……」

 話を聞いていた紫明は、少し考え込む様子を見せる。

「父上、何か策が?」

「ああ、うむ。晴奈、私が央南連合の一員であることは、知っているだろう?」

「央南連合? 確か央南の、政治同盟……、でしたね?」

 エルスの問いに、紫明はうなずく。

「うむ。そこに人員を貸してもらうよう、頼んでみるのはどうだろうか」

「なるほど。確かに連合の軍なら、かなりの戦力になりますね」

「黒炎と戦っていると告げれば、手も貸してくれるだろう」

 晴奈も賛成する。エルスはうなずき、その案を採った。

「よし、それじゃ早速、お願いに行きましょう」

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