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2.
始まりは、彼女が夜道をひた走る、その半日前であった。
その日も、晴奈は親の言いつけ通り、舞踊の稽古と、料理の教室に通っていた。親いわく、「お前の将来を思って」とのことである。
「何が、私の将来よ……」
晴奈は一人、親への不満をつぶやく。親にとって、「私の将来」とは、つまり黄家の将来、親たちの家の将来のことである。
すべては花嫁修業――将来、いい婿をもらうために、やっていることなのである。
「私は、あいつらの人形じゃない……」
ぶつぶつと、不平・不満をつぶやいている。今日までそれが、彼女の日課――教室から家に帰るまでの、彼女の数少ない気晴らしの習慣であった。
そうして道を歩いていると、治安の行き届いているこの街では、あまり見慣れないものに出くわした――ケンカである。
「あ……」
酔っ払いと見える3人の、むさくるしい男たちが、一人の、エルフの女性に絡んでいた。
エルフは欧風の趣がある、中央大陸北部――通称、央北地方や、北方の大陸に多い種族と見られがちだが、精神性と仁徳を重んじる央南地方の風土に、高い知性と、穏やかな性格を持つ彼らは、存外良くなじむのだろう。
男たちはエルフににじり寄りながら、一緒に酒を飲もうと言い寄っている。
「だーらさー、つきあーってってー」
「断ります」
「そんらころ、いわらいれさー」
「断ります」
「いーじゃん、いーじゃんー」
「断ります」
(嫌な人たち……! こんな日の出ているうちから、あんなに酔って、恥ずかしいと思わないの?)
晴奈は遠巻きに見つめながら、男たちに不快感を覚える。女も男たちを、明らかに嫌がっている風である。それを察してか、次第に男たちの語気が荒くなっていく。
「なんらよー、おたかくとまっちゃっれ」
「いいきに、あんあよー」
「きれるよ、きれちゃうよ」
男たちが女ににじり寄ってくる。それを見た途端、晴奈は自然に、女の近くに寄り、手を引いた。
「お姉さん、行こうよ。こんな人たちに、構うこと無いよ」
晴奈を見て、男たちは憤り出す。
「なんらー、このガキ?」
「やっべ、うっぜ」
「うるせえ、あっちいけ!」
男たちの一人が、晴奈を見て、いきなり突き飛ばした。
「きゃっ!」
晴奈はなす術も無く、ばたりと倒れてしまった。それを見た女が、「あっ」と声を上げ、続いてこう言い放った。
「……騒ぎたくは無かったけれど、そんなわけには行かなくなったか」
女の雰囲気が変わったことに、初めに気付いたのは恐らく、倒れて女を仰ぎ見ていた晴奈であろう。それまで逃げ腰のような面持ちだったのが、急に凄みを帯び始めた。だが、男たちはまだ、気付いていないようだ。
「じゃますっからだ、ガキ!」
「いけ、どっかいけ、しね!」
「さあ、おじょーさん、じゃまがきえ……」
3人目の男が、ようやく気付いたらしい。何かを言いかけて、途中で言葉が途切れた。
「幼い子に向かって、そのような態度――容赦、しない!」
女がそう叫んだ瞬間、晴奈に向かって「死ね」と言った男が――吹っ飛んだ。
「ぎっ……」
叫ぼうとしたようだが、叫ぶ途中で気を失ったらしく、そのまま仰向けに倒れて、動かなくなる。
「お、おい」
「な、なにすん……」
続いてもう一人、くの字に折れて、そのまま頭から倒れる。どうやら、女が何か、仕掛けたらしい。晴奈は立ち上がり、女から少し離れて、様子を見る。女の手に、何かが握られているのが、確認できた。
「あ、あ……」
「まだ正気が残っているのならば、さっさとそこの2人を担いで、立ち去りなさい」
「……はひ」
残った男は慌てて倒れた仲間を引きずって、その場から逃げていった。
女の手には刀が、刃を逆に返して握られていた。どうやら、それで男たちを叩き、ねじ伏せたらしい。
これが、後に晴奈の師匠となるエルフ――柊との出会いであった。
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