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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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計算、仕事、一つの結末

深草さんの話、16話目。
姫子ちゃんサイドのお話、完結。



初期の設定からあれこれいじってしまい、
なかなか方向性の定まらない作品でした。

今後も続編書いていく度に、コロコロ変わってしまいそうな気が。
まあ、それはそれで、面白いことになるかも。

   計算、仕事、一つの結末

 

 あたしが到着してから少しして、藤森さんも円ちゃんに連れられて、駆けつけて来てくれた。仕事先から直行したのか、珍しくスーツ姿だ。

「よお、お待たせ。……こんにちは、お久しぶりです、深草さん」

「こんにちは、えーと、確か……、このお客さんでしたね」

 深草さんは壁にかけてあった、兎の付いたカラビナを指し示した。

「あ、はは……、すみません、その節は」

 藤森さんは恥ずかしそうに笑い、小さく頭を下げた。深草さんは首を振り、笑ってこう言った。

「いえいえ、おかげさんで、ええ見本になりました。……ほれ」

 兎の隣には、狐の人形が付いたカラビナが飾ってあった。どうやら、人形もカラビナも、手作りらしい。

 ……むちゃくちゃ器用やなぁ。

 

 

 

 十数年ぶりに手元に戻った絵本を見て、深草さんはコロコロ笑いながら、円ちゃんに見せている。

「懐かしいやろ、これ。あんたがちっちゃい頃、よう聞かせてたなぁ」

「え~、そうやったっけ」

 円ちゃんは恥ずかしそうに笑いながら、手にとって読んでいる。

「あー、うーん……、記憶に無いなぁ。うちが、相当ちっちゃかった時ちゃうのん?」

「そうやねぇ、いつくらいやったかなぁ……」

 深草母娘は絵本を肴に、思い出話を始めている。

「なぁなぁ、姫子ちゃん。これ借りたん、いつくらいやった?」

「ふぇ?」

 円ちゃんは会って間も無いあたしに、とても親しげに尋ねてくる。あたしもなぜか、普通に返してしまう。

「え、えーと、4歳の頃やったから、14年前やね」

「そっかー、そん時やと、うち、まだ……」

 そう言いながら、円ちゃんは指折り数える。……が、何本折っても、数え終わらない。

「えー、……と」

「あんた、まだ数字苦手なんか……。もうっ」

 深草さんは呆れた様子で、円ちゃんの頭をポンと叩く。

「……えへっ」

 円ちゃんは顔を赤くして、ポリポリ頭をかいて――いつの間にか、狐耳が生えている。計算に夢中になっていたからだろうか――恥ずかしがっている。

「ちゃんと計算できるようにならへんと、お店なんかできひんよ」

「うん、まあ、そうなんやけどね」

 そう言いながら、円ちゃんはまだ、指を折っていた。

「お店って、将来は円ちゃんにもお店を?」

「ええ、この子がもうちょっとしっかりしたら、一つ、持たせようか思てますのんや」

「もぉ、うちしっかりしてるって……」「198円が4つ」「え、えー、えーと」

 円ちゃんの狐耳が、ぺちゃりと伏せられる。

「……694円」「あほ」「あぅ……」

 円ちゃん、撃沈。あたしも計算してみる。

「えーと、792円?」

「あら、正解ですわ」

 お、やった。円ちゃんが目を輝かせている。

「計算、早いなぁ。すごいわぁ、姫子ちゃん」

「う、うん。昔、そろばんやってたから」

「そうなんですか~。……円、見習わなアカンよ」

 深草さんはコツンと、円ちゃんのおでこを突っついた。

「あいたぁ……。ええもん、計算は電卓あるし」

「そう言う問題や無いでしょ。

 ……すみまへんねぇ、恥ずかしいところ、見せてしもて」

 深草さんは困ったように笑いながら、あたしと藤森さんに軽く頭を下げた。

「あ、いえ。……バイト、とかは雇われないんですか?」

 あたしはふと、そんなことを尋ねてみた。

 

「へ? うーん……、この店、わりと特殊やからねぇ。募集しても、人来はらへんやろしねぇ。

 まあ、円がこんなんやし、人手はほしいな思うてますけど」

 深草さんは首をかしげながら、そう答えた。わりと、や無いと思う……。

「こんなん、て」

 円ちゃんは頬を膨らませている。

「248円が6つ」「……あぅ」

 深草さんにまた問題を出され、円ちゃんは途端にへこんでしまった――ちなみに、1488円。

「何で、そんなん聞かはりますのん?」

「あ、いえ、何となく」

 すると、円ちゃんが目を輝かせながら、手を握ってきた。感情が忙しい子やなぁ。

「え? え? もしかして、うちでバイトしたいん? ホンマに?

 せやったら、大歓迎やで! 計算できるし、うちの店のこと好きやし、えー人材かもしれへんで、お母さん!」「いい加減にしいや、円」

 沸き立つ円ちゃんを、深草さんがポンと頭を叩いて抑える。

「今日会ったばっかりのお客さんに、いきなり『うちで働け』て、失礼やないの」

「あ、う……ん。ゴメンなぁ、姫子ちゃん」

「あ、ううん、ええよ、円ちゃん。

 ……でも、あたし、深草さんのお店なら――ちょっとくらい、バイト代安くてもいいから――手伝ってみたいかなー、って」

 深草さんに怒られてしゅんとなっていた円ちゃんが、あたしの言葉で途端に元気になる。

「ホンマに? ええの? ホンマ?」

「あらもう、嬉しいこと、言うてくれはりますね」

 深草さんはコロコロと笑っている。ところが――。

「……ほな、ちょっと、お試ししてみはります?」

「え?」

 笑っていた深草さんの顔が、少しだけ真面目になる。

「うちの店に来れるように、道を作っておきますさかい、しばらくお手伝いしてみてもろて、それでできそうかどうか、って言うのんを見てみましょか」

「い、いいんですか?」

 バイトはいないのか――普通のお店であれば、何てことの無いこの一言で、こんな風に話が進むなんて。

「お、おい、姫子ちゃん」

 横でやりとりを見ていた藤森さんが、普段は細い目を大きく見開いて、割り込んできた。

「いくらなんでも、それはまずいって」

「そうですか? 面白いと思うんですけどねぇ」

「いや、そう言う問題じゃないだろ……。だってさ、ほら、その……」

 言いにくそうにしているが、藤森さんの言いたいことは、何となく分かった。

 化かされるかも、でしょ?

 

 ええよ、別に。深草さんやったら、化かされてもええわ。

 深草さんやったら、何か、笑って許せる気がする。

 

 

 

 とある路地を歩く。

 路地を抜けると、あのお店にたどり着く。

 店に入ると、円ちゃんがふにゃりと笑って出迎える。

「おはよう、姫子ちゃん」

 深草さんが、コロコロと笑って挨拶する。

「おはようさん、今日も頑張りましょ」

 あたしは狐と月の刺繍が入ったエプロンを着ながら、満面の笑みで挨拶する。

 

「おはようございます。今日も、頑張りましょうね」

 

計算、仕事、一つの結末 終

桃山姫子の店探し編 完

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