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3.
「大丈夫、晴奈ちゃん?」
柊が心配そうに、晴奈の手のひらを覗き込んでいる。先ほど突き飛ばされた時に、すりむいてしまったのだ。
「う、うん」
先ほどの騒ぎが一段落し、柊がケガをした晴奈に気付き、落ち着いた場所まで連れて、手当てしてくれたのだ。さすがに魔力の高いエルフであるためか、癒しの術ですぐに、傷を治してくれた。
「ありがとうございます、柊さん」
「いやいや、礼を言われるほどのことじゃ」
そう言って、柊は微笑んだ。出会ってたった、十数分しか経っていないが、晴奈はこの人が、とても好きになっていた。
「強いんですね、柊さん」
「いやいや、私なんか、まだまだ。晴奈ちゃんこそ、勇気がある。普通の人は、あんな時に声、かけられないわ」
「そ、そう、ですか?」
そう言われて、晴奈は妙に嬉しくなった。今までのほめられ方は「女らしい」「可愛い」と言う、親のかける期待を反映したかのようなものだったが、今、柊からかけられた言葉は、そんなものとはかけ離れた――「親の期待」とは無関係なところを、的確に打つような、まさに晴奈が望んでいた言葉だったのだ。
「……いいなぁ、かっこ良くて」
思わず、晴奈はため息混じりにつぶやく。
「ん?」
「私なんか、全然、かっこ良くない。……どうしたら、柊さんみたいになれるかな?」
柊は少し、困ったような顔でこう返した。
「うーん……。剣術、かな。昔から、励んでいたから」
結局その日は、そのまま柊と別れた。柊はこの街を発った後、剣術修行のため、南にある修練場に向かうのだと言う。
別れた後から、晴奈の中で二つの思いが交錯する。
柊さんを追いかけて、自分も剣士になりたい。でもそれを選べば、親との別れ、今までの平穏な日常が終わることを意味する。
晴奈は家に戻ってからもずっと、剣士の道を取るか、それとも安穏な日々を取るか、迷っていた。
そんな風に考えあぐねていたから、廊下でうっかり、妹とぶつかってしまった。
「きゃっ」
「あ、ああ。ごめんなさい、明奈」
晴奈は慌てて、妹、明奈に謝る。
「どうなさったの、お姉さま?」
明奈はきょとんとした顔で、晴奈の顔をのぞき見る。
「少し、考えごとを」
「すごく、険しい顔をしていらっしゃるわ。一体、どんなことを?」
「……」
妹になら話してもいいかと思い、晴奈は明奈を自分の部屋に招き入れ、悩みを打ち明けた。すべてを聞き終えた明奈は、静かに一言、こう言った。
「……行った方が、よろしいのでは?」「え……」
明奈の一言に、晴奈は驚いた。てっきり、反論されるか、止められるかするかと思っていたのだ。
「黄家は、わたしが継ぎます。だからお姉さま、ご自分の夢を追いかけてらして」
「で、でも明奈、あなたは?」
「わたしは、そこまで強い思いがありません。せいぜい、『良縁に恵まれ、良いお嫁さんになりたい』と言う程度――黄家にふさわしいでしょう?
でもお姉さまは、大きな志を、夢を抱いていらっしゃる。その夢は、この古い家にいたのでは、終生叶いませんわ」
たった8歳だが、強いまなざしで語る明奈の言葉で、13歳の晴奈の心の奥底に、かっと火が差す。
これまでの安穏とした生活を脱し、修行と言う荒波に向かう勇気が、沸き起こった。
夜半、晴奈は荷物をまとめ、家を抜け出した。
柊さんにもう一度会うために。
そして――柊さんのような、強く、かっこいい剣士になるために。
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