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3.
戦いは、時間が経つごとに激しさを増していく。一体何百人、いや、何千人いるのか――教団員は続々と、侵入してくる。
最初のころは、威力が高い反面、長めの呪文や大掛かりな動作を伴う術を使っていた橘も、威力は低くなるが、時間をかけずに発動できる術で応戦しており、余裕が無くなっているのが伺える。
柊もあちこちを走り回り、立て続けに教団員たちを切り捨てている。いつものたおやかな表情も、穏やかなしぐさも、今は勇猛な女武芸者のそれとなっている。
晴奈ももちろん、15歳と言う若さを感じさせない、俊敏で鋭い動きで、師匠でさえも一瞬、目を見張るほどの立ち回りを見せていた。
「でやーッ!」
まるで閃光のような剣閃が、晴奈から敵に向かって走る。
「が、あ……」
敵は短いうめき声をあげて、どさりと倒れる。すぐさま倒れた敵を踏み越え、その後ろに立っていた敵に、刀を払う。
「うぐ、く……」
瞬く間にもう一人。
「それッ!」
その敵も踏み台にして、また一人。あまりの攻勢に、晴奈の周囲にいた者たちは、敵・味方関係なく、度肝を抜かれた。
「何だ、あの『猫』は……!?」
「黄、か?」
「く……、俺たちでは、歯が立ちそうも無い……!」
「せ、晴奈ちゃん……。何か、怖いよ?」
当の本人には、それらの声が耳に入らない。異様な高揚感で、周りが見えなくなり始めていたのだ。
(敵は……、敵は……ッ、どこだッ!)
その闘気に引き寄せられたのか、嵐月堂の境内を、しゅっと一直線に横切る者があった。その異様な気配を感じ取った柊は、暴走気味の晴奈に向かって走り出した。
「晴奈、危ない!」「え」
柊は晴奈の手を強く引っ張り、体勢を崩させた。その直後、先ほどまで晴奈の頭があった辺りを、ヒュンと言う音が切った。
「チッ、外したか!」
晴奈が顔を上げると、そこには黒い服に身を包んだ、晴奈と同い年くらいの、狼獣人の姿があった。
「調子に乗っている猫女を、葬るチャンスだったが……。なかなか、うまく行かんものだな」
「狼」は手に持った、3つに分かれた棍棒をヒュンヒュンと振り回しながら、憎々しげに吐き捨てた。その武器を見た橘が、口に手を当てて叫ぶ。
「三節棍、そして、黒毛の『狼』……! まさか、ウィルソン!?」
「ほお、俺の名を知っているのか。クク、俺も有名になったもんだな」
「狼」はニヤつきつつ、橘に向かって片目をつぶる。いわゆる「ウインク」であるが、晴奈には何をやっているのか分からない。
(目に、ゴミでも入ったか? ……何だ、この高慢な『狼』は?)
晴奈はすっと立ち、刀を構え直した。師匠のおかげで少し冷まされたが、まだ頭の中は高揚し、たぎっている。
「敵の陣中で、よくもそれだけ余裕が見せられるものだな、犬」
晴奈が挑発すると、「狼」は「ヘッ」と笑って、馬鹿にした様子を見せる。
「お前、オレと同い年くらいか? やめておけ、様になってないぜ。それから……」
そう言って――突然、晴奈に向かって襲い掛かった。
「このウィルバー・ウィルソンをなめるな、猫女ッ!」
晴奈とウィルバーの中間で、激しい火花が散る。飛んできた棍の先端を、晴奈が刀を払って弾いたのだ。すぐさま、晴奈は第二撃をねじ込む。今度はウィルバーが、これを防ぐ。
「フン、わりとすばしっこいな。だが、オレには敵うまい」
攻撃を受けた部分の棍を軸に、他の棍を回転させる。勢い良く回る棍が、晴奈の目の高さまで上がる。攻撃が来ると構え、晴奈は一歩退く。ところが――。
「はは、そう来ると思ったぜ!」
ウィルバーは上がってきた棍をつかみ、そこを軸にして、また棍が回転。ヒュンと風を切る音を立て、晴奈の頭上にまで棍が伸びる。
「……ッ!」
退いた直後で、晴奈の動作には余裕が無くなっている。棍は動けない晴奈の額に、鈍い音を立ててぶつかった。
視界がぎゅっと、音を立てそうなほどの勢いで、暗くなる。額から後頭部にかけて、電気の走るような、何かが突き抜けるような衝撃を感じ、晴奈の意識が乱れる。
(な……、あ……、し、しま、った……)
気を失う直前、ウィルバーの勝ち誇った声と――。
「ククク、だから言ったのだ。オレには敵うまいと……」「克の真似なんかしている暇あるの、ボウヤ?」「ぐえっ」
――倒れる音を、聞いた。
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