[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
4.
「……!」
晴奈は飛び起きた。と同時に、額に鋭い痛みが走り、顔をしかめる。
「く、……ぅ」
「起きた、晴奈ちゃん?」
すぐ横に、心配そうな顔を見せる橘が座っていた。どうやら、倒れた晴奈の看病をしてくれていたらしい。
「た、戦いは!?」
「終わったわ。追い払った」
「そ、そう、です……、か」
晴奈は安堵とも、後悔とも、羞恥とも取れる、複雑な感情を覚え、たまらず涙をこぼした。
「私は……、馬鹿だ」
「ん?」
「あの『狼』をふざけた馬鹿者と侮って……、その結果が、これか。
何のことは無い、私自身、その馬鹿と何ら、変わらなかったのか……ッ!」
痛む頭を抱えながら、晴奈は自分を恥じた。
晴奈は丸一日、眠っていた。その間に、戦いは終わっていた。
十数名の犠牲は出たものの、その何倍もの被害を敵に与え、紅蓮塞は今回も、守られた。あのウィルバーと名乗る「狼」も、手下の教団員たちに抱きかかえられるように、逃げ去ったと言う。
「あのウィルソンって言うヤツね、実は、教団教主の息子なのよ。克信仰って言うより、克かぶれで有名なの。
でも、中身はお子様。晴奈を気絶させて勝ち誇ってる間に、あたしが思いっきり、引っぱたいてあげたからね」
「……かたじけない」
晴奈はまだ、涙が止まらない。それを橘はずっと眺めていたが、やがて立ち上がり、晴奈を一人残して部屋を出て行った。
少ししてから、晴奈は橘の泊まっている部屋を訪ねた。杖の鈴を手入れしていた橘が、くるりと向き直って微笑みかける。
「あら、もう大丈夫?」
「はい、まだ痛みはありますが、何とか歩けます。……橘殿、いくつか質問して、よろしいでしょうか?」
橘は少し間を置いて、「いいわよ」と答える。
「あの……、克大火を、知っているようなご様子でしたが、実際に、会ったことが?」
「……ある。央北の街で、一度だけ見たことがあるわ。
初めに見た時は、何と言うか、煙かもやみたいに、虚ろな印象を持ったわ。きっと、街の人の何人かは、彼がそこにいたことさえ、気付かなかったんじゃないかしら。とにかく、煙のように、静かな男だった。
でも。そこに何人か、武器を持った者が現れた――きっと克を倒して、名声を得ようとしたのかも――そして、克が彼らに気付いた瞬間……」
そこでまた、橘は間を置く。
「……瞬間、克は変貌した。
それまでのぼんやりした、煙のような印象は消えて、すさまじいほどの殺気が、彼を包んだ。次の瞬間に、克を狙っていた人たちは――死んだ」
橘の額に、汗がにじんでいる。よほど、その時の光景が、恐ろしかったのだろう。
「何をしたのか、分からなかったけれど。向かっていった一人が、燃え出した。それを見た瞬間、他の人たちはみんな、怯んだ。そしてその人たちも、一瞬で血だるまになって、崩れるように倒れて死んだ。
逃げようとした人も――『ククク……、殺される危険も背負わずに、俺を倒す気か? おこがましいとは、思わんのか』と吐き捨てられて――斬られた」
その話に、晴奈はゴクリと、唾を飲む。自分たちはあの修羅場で、何十分も、何時間もかけて、命の奪い合いをしていた。だが、克は一瞬で、何人もの人の命を、簡単に絶つのだ。改めて晴奈は、克を悪魔だと思った。
でも、なぜだか――克の放ったと言う言葉が、耳に残る。
――返り討ちの危険も考えず、人を殺そうとする? 何とも、傲慢なことだ。
モノを得たければ、今持っているモノを失う覚悟も、無ければならないはずだ。
その覚悟も無く、モノを得たいと、成したいと願うのか? 甘いぜ、お前ら――
(なるほど、箴言、か。
黒炎教団。そんなものができる理由も、分かる気が、する)
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |