[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
5.
正午少し前に、晴奈たちは自警団の会議に参加した。昨夜取り逃がした大狐を、もう一度捕まえようかどうか話し合っているのである。
「思ったよりてこずった、と言うか」
「難しいな、捕まえるのは」
「あの動きと、魔術まで使われては……」
昨夜の失敗で、自警団内の空気は重苦しく淀んでいる。
「しかし、決して倒せないと言うわけではない。現に、あいつの術は俺が破っている」
団長である謙は場を盛り上げようとするが、団員の顔に希望の色が浮かんでこない。
「でも、我々では歯が立ちません」
「団長以外、ほぼ全滅でしたし」
一向に場の沸き立たないまま、消極的な案が出される。
「このまま、放っておくわけには行きませんか?」
「何だと?」
「あの狐はどんどん南下しているというじゃないですか。もしかしたら、このまま英岡から離れてくれるかも」
それを聞いた謙は「ううむ……」とうなり、腕を組む。
(確かに、一理あると言えば、あるのだが)
晴奈もその理屈に納得しないではないのだが、どうも引っかかる。
「しかしですね」
それまで黙って会議を眺めていた柊が、突然手を挙げた。
「これまで南下したから、これからもずっと南へ行く、……とは限らないと思うんです。英岡自体かなり南の街ですから、狐の南下がここで止まる可能性は少なくないと思います。ここで街の方には絶対に来ない、とも断言できないですし。
もう一度捜索に当たった方が、後顧の憂いを断てるのでは、と」
柊の意見に、各々考え込む様子を見せる。長い沈黙が流れた後、謙が採決を取った。
「……どちらにしても、このままうなるだけでは埒が明かない。どちらかに決めよう。
このまま放っておいた方がいい、と言う者」
こちらの案には、10人の手が挙がった。
「では、もう一度捜索した方がいい、と言う者」
柊が真っ先に手を挙げる。それに続いて、晴奈と良太が手を挙げる。が、それに続いたのは5人――合計で、8人。
「……決まりだな。
では、一応の警戒だけはしておくが、こちらから討伐には出向かない、と言うことにしよう」
謙も不安に思っていたらしく、折衷案を出す形で場をまとめた。
会議が終わり、晴奈たちはまた樫原家に戻ってきた。
「おかえりなさい、皆さん」
洗濯の途中だった棗がにこやかに出迎えてくれる。謙は会議で決まったことを伝え、もう2、3日、夜の巡回をすることを伝えた。
「そうですか……。でも、ここしばらく、あまり休んでいらっしゃらないのでしょう?」
「まあ、鍛えてるから心配はいらない。終わったらぐっすり寝るさ」
「そう……。無理、なさらないでくださいね」
それを見ていた柊と晴奈はほぼ同時に、樫原夫妻に声をかけた。
「あの、良かったら」「ん?」
晴奈が引き、柊が提案した。
「わたしと晴奈で今日の巡回、交代するわよ」
「え? いや、しかしお客にそんなことは……」
申し訳無さそうな顔をする謙に人差し指を立て、柊が続ける。
「水臭いわよ、お客だなんて。たまには、家族みんなでゆっくり休んだ方がいいわよ」
「……そうだな。じゃあ、柊一門のご好意に甘えるとするかな」
柊はにっこり笑って承諾した。
「ええ、任せてちょうだい。晴奈と良太がいれば、全然問題ないわ」
「え? 僕……」「黙れ。空気読め」「……はい」
良太が口を開きかけたが、晴奈が小声で黙らせた。
夕方からの巡回に備え、晴奈たちは寝室に戻った。
「ゴメンね、良太」
「いえ、そんな……」
いつの間にか良太まで参加することにしてしまい、柊が手を合わせて謝っていた。
「しかし良太、仮に私と師匠だけで行ったら、お前多分困るぞ」
「え? ……あ、ですよね。家族水入らず、ですもんね」
良太は頭をポリポリとかいて、柊に謝り返した。
「すみません、僕の考えが至らなくて」
「いいのよ、謝らなくて。元々、わたしが勝手に言っちゃったんだから。でも、二人とも頼りにしてるから、今夜はよろしくお願いね」
頼りにしていると言われ、良太の顔が一気にほころぶ。
「あ……、は、はいっ! 精一杯、頑張らせていただきますっ!」
「うふふ、ありがとね」
晴奈は隣の部屋にいる樫原夫妻の声に耳を傾け、軽くため息をつく。
「ふむ……。本当に、幸せそうだ」
「ん?」
「いや……。私の家族は、ある事件で妹がさらわれたからな。それに私自身、親に反発して家を出た口だし、お前の言っていた『幸せな家庭』って奴に、私も少なからず憧れてはいるんだ」
「そうだったんですか……。姉さんのところも、大変なんですね。
……あ、そう言えば」
良太は何かに気付き、柊の方を見た。
「先生って、ずっと紅蓮塞にいたんですよね?」
「ええ、そうよ」
「いつから塞にいらっしゃるんですか? ご家族とかは?」
良太からそう質問された瞬間、ほんの一瞬だけ、柊の顔が曇った。
「……さあ? 物心付いた時からいたもの。覚えてないわ」
答えた柊の顔は平静を装っているように見えたが、明らかに不快そうな目の色をしていた。
「あ……。何か、その、えっと。……すみません」
良太は慌てて謝ったが、柊の機嫌は直らなかった。顔を背け、部屋を出て行ってしまった。
「いいのよ、別に。……散歩してくる」
「ああぁー……。僕、変なこと言っちゃいましたかぁ?」
良太は頭を抱えてへこんでいる。
「まあ、虫の居所が悪かったのだろう。気にするな、良太」
晴奈は良太の肩を叩きながら慰める、その一方で、柊の態度に疑問を抱いていた。
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |