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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・逢妖録 1

晴奈の話、38話目。
妖怪話と、現代っ子の反応。

世界観について補足。
時代や央南地域の文明観としては、大体明治初期と同じくらいと思ってください。
黄海とかはこんな雰囲気で。
http://zoomphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/jp/bestshot.html


1.

 双月暦512年、暮れ。

 央南中部ではある「化物」のうわさが広まっていた。姿は白い大狐で人語を解し、魔術を操り、人里離れた人家や旅人を狙うと言うのだ。

 

 

 

「へぇ」

 柊が手紙を読み終わり、驚いたような声を漏らした。

「晴奈、良太。ちょっとこれ、見てみて」

「はい、何でしょうか?」

 ともに精神修練の一環、写本をしていた晴奈たちは師匠の差し出す手紙を手に取り、読んでみた。

「……え? 狐の妖怪、ですか?」

「冒頭からまた、胡散臭い話ですね」

 晴奈も良太も、けげんな顔で柊に応えた。

「あの、良く読んでみるとこれ、先生のご友人からの手紙ですよね。助けて欲しい、と書かれているのですが……」

 良太の質問に、柊は少し困ったような顔でうなずいた。

「そうなの。何でも、彼がいる街でも、被害が出たらしくって。彼が率いている自警団で、その妖怪を捕まえよう、って言うことになったらしいの。

 それで腕の立つ人が欲しいから、来てくれないかって言うんだけど」

「はあ……」

 話を聞いた晴奈は写本に戻りながら、率直な意見を述べた。

「胡散臭いにも、ほどがありますね」

「そうですか?」

 意外そうな顔をした良太を見て、晴奈は少し呆れる。

「そう思わないか? 確かに、困ったことが起きたから手を貸してくれ、と言うこと自体は特に不審でもない。が、妖怪などと言うのがどうも、疑わしいのだ」

「妖怪が、疑わしい?」

 今度は柊が尋ねる。

「私はこれまで一度も、そんなものを見たことは無いので」

「でもほら、黒炎教団の、神様とか。300年生きてるって言うし」

 良太の意見も、晴奈はにべも無く否定する。

「だからそんなもの、私は見たこと無い。知り合いが見たとは言っているが、私自身が確かめたわけでは無いしな」

「うーん……」

 晴奈の言い分を聞いて、柊は腕を組む。少し間を置いた後、ゆっくりとした口調で、晴奈と良太に説明し始めた。

「えーと、ね。晴奈、誤解してると思うんだけど、……いるのよ、実際」

「え?」

「神話の時代から、数多の化物がそこら中に存在したと言われているわ。天帝教の英雄たちが竜や巨大な狼に襲われ、討伐したと言うおとぎ話を初めとして、その手の話は枚挙に暇が無い。

 でも文明が進むにつれて、そう言った話は少なくなっていった。これは人間の住む地域が、そう言った化物の棲む地域に入り込んだせい。その場所にいた化物は討伐、淘汰されて、とっくの昔に消滅しているわ」

「まあ、それはまだ、うなずけます。しかしその話を前提にしたとしても、すでにそんなものはこの世からいなくなったのですよね?」

 晴奈の反論に、柊はわずかに首を振った。

「いえ、まだ世界全域に人間の手が入ったわけじゃないもの。この央南に限っても、屏風山脈は峠道から外れれば異世界も同然だし、あちこちの森や近海にも、人間が入り込めない場所はたくさんあるわ。

 だから、まだ駆逐されていない化物、妖怪は――確実に、いるのよ。そう見えないのは、そんなところに踏み行ったことが無いからよ。これまでの旅も、なるべく安全なところを選んだわけだし」

「そんなもの、ですか」

 まだ、晴奈は腑に落ちなさそうな顔をしている。それを見た柊はすっと立ち上がった。

「じゃ、証拠を見せてあげる」

「証拠?」

 柊はいきなり、上着を脱ぎ始めた。良太が素っ頓狂な声を出し、飛び上がる。

「え、ちょっ、先生!?」

「ちゃんと下は着てるから。……ほら」

 上着を脱ぎ、肌着をへその上までめくった柊を見て、晴奈たちは絶句した。

「……!」「その、傷は」

「刀傷には見えないでしょ?」

 どう見ても、大型獣の爪痕――それが腰から鳩尾の下にかけて、柊の右半身に付いていた。

「昔、友人と旅をしてた時に付けられたんだけどね。あの屏風山脈を越える時に、うっかり峠道から外れてしまって。で、襲われたの。

 わたしは大ケガを負うし、魔術師だった友人も杖を折られちゃうし。助けが無かったら、死んでたところだったわ」

「……」

 良太は食い入るように、柊の傷痕に見入っている。晴奈は恐る恐る、尋ねてみた。

「その、化物とは」「あら、聞きたいの?」

 柊は服を着ながら、珍しく恐ろしげな笑みを浮かべ、尋ね返した。

「……い、いえ」

 その笑い方があまりにも怖かったので、晴奈は口をつぐんだ。

 

 ちなみに良太は柊を見つめたまま、放心していた。よほど柊の姿が強烈だったらしい。

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