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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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桃山、新聞配達、飴玉

深草さんの話、第6話。
この話を書くために、早朝桃山まで行ってきました。



暗いよ寒いよ怖いよー。

暗いのは、仕方ないです。朝の4時でしたから。
でも9月なのに、あの肌寒さはなんなんでしょう。
あと、東高瀬川沿いの一本道。車やバイクが通ると、身構えずにはいられない。
怖い。超怖い。


あと、一応写真も撮ってきたり。
ええ、真っ暗ですよw
桃山1 桃山2

里八さんにイラストを描いていただきました。
http://www.geocities.jp/wgjkx956/newpage4.html

   桃山、新聞配達、飴玉

 

 俺と姫子ちゃんは深草さんを探すため、まずは情報を集めることにした。手始めにウェブサイトを作って、ネット上で情報を募ってみた。最初は「狐? バカじゃないの」だの「深草さん萌え」だの、滅茶苦茶な感想しか寄せられなかったが、次第に「その噂は聞いた」「私もそれっぽい人に会ったことがある」という、信憑性のある投稿が増えてきた。

 

 その中に一人、「深草さんと話をした」というメールがあった。とても詳しく、その時の状況が書かれていたので、俺たちはその人と直接会って、話を聞くことにした。以下、その人から聞いた話を記しておく。

 

 

 

 ええ、深草……さん、でしたっけ、私が若い頃、そうですね……まだ高校生の時、何度か会いましたよ。名前は、伺ったこと無いんですが。

 その頃私、新聞配達のアルバイトをしていたんです。でもねぇ、京都の伏見桃山って言えば酒処なんですが、お酒造りに適した土地ということで、その分とても寒いんですよ。しかも新聞配達って言えば早朝の仕事――もう、夏以外は寒くて寒くて。原付で配りに行くんですが、走っていると耳が千切れそうに痛くなるんですよ。

 あ、すいません、話がそれちゃって……深草さんの話、でしたね。ええ、そのアルバイトをしていた頃に、会ったことがあります。朝の……そう、4時半くらいですかね。そんな時間帯でも、割と起きている人は多くて。犬の散歩をさせていたりとか、開店準備していたりとか――その人も似たような理由で、起きていたそうです。

 後で聞いた話なんですが、その頃かなり手のかかる物を作っていたそうで、その時だけ集中的に早起きしていたそうなんです。普段はあんまり早起きしないと言っていました。……その、朝が弱かったそうで。

 

「寒いなぁ……」

 秋の終わり頃で、さっきも言ったようにとても、寒い。さっさと配達を終わらせて、早く帰りたいと配達の間中、心の中で唱えていました。それで、ある酒蔵の横を通ったところで、その人に会ったんです。

「ふあ、あぁ……」

 とても、眠そうにされていました。その人が出てきた家――うーん、暗かったのでお店……だったかも、知れませんが――の隣に新聞を投函していたんですが、始終、その……あくび、されていました。

「おはようござい……ま、す」

 まあ、そのまま無言で通り過ぎるのも変ですからね、軽く挨拶しておこうと思ったんです。でも、その……、本当に、朝が弱かったんでしょうね。

「……もしかして、朝弱いんですか?」

「ふあぁ……え? どうして分からはりました?」

「………………い、いえ。なんとなく、そんな風に思ったので」

 ええ、そうなんです。その人に、狐のような耳と、尻尾が生えていたんです。とても眠たそうにしていたので、気が抜けていたんでしょうかね。「化け損ねた」っていう、そんな感じでした。でも、自分では気付いていないのか、あんまり堂々としていたので……。

「そ、そ、それ、じゃっ! 今日も一日、頑張ってくださいねっ!」

「あ、はい、ありがとさんー。……ふあ~ぁ」

 耳と尻尾のことは、結局その時、言い出せなくって――逃げるように、その場を後にしました。

 

 次の日、またその人に会いました。

「お、おはよう、ございます」

「ふあぁ……ああ、おはようさん」

 その日は、耳も尻尾も生えていませんでした。でもやっぱり、気になっちゃって……新聞を投函する間、チラチラ見ていたら――その人が、コロコロという感じで笑って。

「今日は大丈夫ですわ。昨日は驚かせまして、すみまへんなぁ」

「あ、は、はい、いえ」

「いやもう、いっつもうち朝遅いんですわ。せやから、こんな時間に起きると眠とうて、眠とうて……ふぁ、あぁ」

 大丈夫、と言っていましたが、その人があくびをする度に、耳が――人間の状態だと、髪で隠れていたんですが、その辺りがピクピク動いていました。

「ふぁ……。あんた、学生さんか?」

「はい、高校に……」

「そうかぁ……。大変やねぇ、こんな朝早ようから。頑張りや~」

「ありがとうございます。それじゃ、また……」

 今度は、きちんと挨拶ができました。

 

 それから……えーと、一月半くらいはその人と会っていました。2、3日に一回くらいしか会わなかったんですが、それがちょっと楽しみになっていましてね。結構、その……着物姿がきれいな、美人さんだったので。その間、あんまり込み入った話とかはしなかったんですが、最後に会った日だけ、じっくりお話、しましたね。

「おはようさん」

「おはようございます」

「ああ、そうそう。うちな、一仕事終えまして。せやから、明日からはいつも通りに――朝遅くに起きるようにしようか思いましてな」

 その言葉を聞いた時、もう会えないのかと思って残念がりました。

「そうなんですか……お仕事、お疲れ様でした」

「ありがとさん。……それでな、あんたとも多分、会わへんようになるやろうから、お仕事終わったら、またうちに来てもろてもええかな? 最初会うた時、驚かせたおわびしとかなと思いまして……」

「……はい、行きます!」

 名残惜しい、っていう気持ちが強かったので、仕事を終えた後すぐ、その人のところに戻りました。

 

 仕事が終わったのが5時半くらいでしたが、まだ辺りは暗くって。その人のいるところに戻ったんですが、やっぱり最後まで家か店か、良く分かりませんでした。

「おつかれさんでした」

「ありがとうございます。それで、あの……」

「ああ、はいはい。おわびの品、ということで」

 その人は着物の袖から、袋を取り出しました。

「飴ちゃん、ですわ。うちが作ったんですが――生姜が入っとりましてな、なめると体が温こうなって、風邪の予防にもなります。

 これから寒うなりますし、これなめて頑張っておくれやす」

「ありがとう、ございます……」

 無作法だったと思いますが、私、そこで一ついただいたんです。

 とってもうまくって……涙が、思わず出そうになるほど、うまかった。

 

 

 

「今度は、伏見桃山か……京都中、あっちこっち回ってるみたいだな、深草さん」

 話を聞き終えた俺たちは、帰りの市バスの中で話を整理していた。

「えーと、これまでの目撃場所は……円山公園、河原町、祇園、それから……伏見桃山、ですか。バラバラですねぇ、ホンマ」

 姫子ちゃんはメモ帳に眼を通しながら、頬に手を当ててうなっている。

「まだまだ、見つかりそうにないですねぇ。ホンマに会えるんかなぁ、深草さん」

 

桃山 新聞配達 飴玉 終

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