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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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今出川、電話、再会

深草さんの話、14話目。
桃子ちゃんサイドの話、いよいよ大詰めです。

友人から「円ちゃんアホでかわいい」との意見をいただきました。
確かに、最初特にキャラ付けもせず出していたのに(8話)、
なぜか「迷子になる(11話)」「記憶力が悪い(12話)」「計算できない(後日掲載)」と、
段々アホになってきちゃってます。
なるほど、キャラが動くとはこう言うことかw

   今出川、電話、再会

 

 太丸さんからのメールを受け取ってから、3日後。あたしの携帯に、非通知で着信が入った。

 

 普段なら、非通知には出ない。何があるか分からへんし、何か怖いから。でも、その時だけは、すっと、電話に出てしまった。

「もし……、もし」「あ、どもども~」

 あどけない、明るい女の子の声が、携帯から響いてきた。

「あ、の。どちら様、ですか?」

「『たまきや』広報の、深草円と申しますー。太丸さんからお話聞いて、ご連絡しましたー」

「あたしの、電話番号は?」

 どこで知ったん、円ちゃん?

「太丸さんから、教えてもらったんです」

 あ、そっか。サイトのアドレスと、メールアドレスと一緒に、教えてた気もする。

「うちの店に来たい、言うたはるって聞きましたー。うちの事情も聞いてはるみたいなんんで、とりあえず今から招待しますねー。今、どこにいはります?」

「あ、えっと。その、えっと……、あ、あの、家に、あ、いや、今出川です」

「じゃあ、15時になったら地下鉄今出川駅の、4番出口前で。うち、茜色の着物着て、立ってますさかい」

 そう言って電話は切れた。15時? ……ちょ、後20分やん!?

 

 とにかくあたしは急いだ。藤森さんに電話して、化粧して、着替えて、玄関を出……かけて、あれを忘れたことに気付いた。

「あ、アカンアカン! あれ、あれ持って行かな!」

 靴を履いたまま、玄関から居間に走って、机の中からあれを――14年前、深草さんから借りた本を取り出し、もう一度玄関へ飛んだ。

 

 

 

 今出川駅へ着いたのは、15時を少し過ぎた頃だった。

「ゼェ、ゼェ……」

 地下鉄への出入り口前に、オレンジ色の和服を着た、17、8くらいの女の子がいる。その子はあたしに気が付くと、ふにゃりと笑って――太丸さんがそう表現したのが、本当にしっくり来る笑い方だ――会釈してきた。

「あ、こんにちは~。桃山さん、ですか?」

「は、はぁ、い。遅れて、すみません」

 息を切らせながら、あたしは遅刻したことをわびた。

「ううん、うちも今、来たところやから」

 円ちゃんはまた、ふにゃりと笑って許してくれた。……ええ子やなぁ。

 

 走っている間に震えていた携帯を確認すると、藤森さんから「仕事の都合でどうしても遅れる。ゴメン」と言うメールが入っていた。

「え~……、もう一人の人は来られへんのん? 残念やなぁ」

 円ちゃんはちょっとつまらなそうな顔をしたが、すぐに笑顔を作る――今度はいかにも営業スマイルみたいな笑い方だ。

「まあ、それやったら仕方あらへんなぁ。ほな行きましょ、桃山さん」

 そう言うなり円ちゃんはあたしの手を引っ張って、路地へと連れて行った。……あれ?

「ど、どこに、行くんですか?」

「うちの店。そーゆー約束やったでしょ?」

「あ、うん」

 でも、その路地は――あたしが今来たばかりの、学生向けの下宿が立ち並ぶ路地なんやけど?

 

 

 

 戸惑っているあたしをよそに、円ちゃんはあたしの手を引いたまま、グングン路地を歩いていく。いつも見慣れていた、何てことの無い路地に、本当にお店への入り口があったのだろうか?

「あ、こっちやで」

「え? え?」

 円ちゃんは不意に、男の人の肩幅ぐらいの間しか無い、ものすごく細い路地へと入り込む。

「手、離さんといてなー」

「う、うん」

 どこに連れてくん、ホンマ? ……いや、分かってるんやけど、聞かずにおられへんよぉ。

「もうちょっと、先やから、頑張って付いてきてなー」

「は、はぁい」

 3分ほど進んだところで、あたしたちはその細い路地を抜けた。そこからさらに少し歩いて、円ちゃんはある建物の前で立ち止まった。

「はい、ここ」

「こ、こ?」

 目の前には、いかにも由緒ある感じの町屋が建っていた。辺りを見回してみると、まったく見たことの無い街並みが連なっている。

「あれ? ここ、今出川じゃ」「あ、ちょっと飛んだから」

 飛んだ? ワケ、分からへんよぉ、円ちゃん。

 助けてぇ、藤森さん。あたし、化かされてるぅ。

 

 戸惑い、立ち尽くすあたしに、円ちゃんは何事も無いかのように、中に入るよう促す。

「ほら、姫子ちゃん、早よ入って。お母さん、待ってるから」

 お母さん――深草さん。混乱するあたしの頭は、辛うじてその情報だけは飲み込めた。何とか頭の中を整理しよう――そう、相手は狐さん……神通力……深草さん……お店……藤森さん……サイト……お店……路地……化かす……ちゃう、神通力……不思議な……力……お店……藤森さん……一緒に……探す……お店……深草さん……返す……本――やっと頭の中が静まってきた。

 そう、目の前にある、このお店。このお店こそが、あたしが14年間ずっと、もう一度訪れたいと願っていたお店なのだ。そして深草さんに会い、ずっと借りたままだった本を返す。

「……うん。今、行きます」

 あたしは深呼吸をして、ゆっくりと店へと歩いていく。戸口に立ち、そっと、戸を引く。

 

 

 

「あら、いらっしゃい。珍しいなぁ、直に来はったんですか」

 中には優しく微笑みかける、綺麗なおばさんがいた――14年経っても、全然変わってへんかった。

「……お、お……」

「お?」

「おひっ、お久しぶり、です、深草さ……、ううん、たまきさん」

 緊張で声が出えへんよぉ。噛んでもうたし、……最悪やぁ。

「ああ、お久しぶりですなぁ、姫子ちゃん」

「え」

「元気、してはりました?」

 覚えてて、くれたんですか?

「ええ、覚えてますよ。ホンマに、大きくならはって」

 何で、考えてること……、ううん、いいや、今はそんなこと、どうでも。

「そ、そのっ……」

 舌が、回らへん。落ち着いて、落ち着いて、あたし。

「その、……あ、……会いたかったです、深草さん」

「あら、ありがとさん」

 そう言って、深草さんはコロコロと笑った。

 

今出川、電話、再会 終

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*COMMENT-コメント-
▽無題
>どこに連れてくん、ホンマ?
>ホンマに、大きくならはって
ゴクリ・・・
▽無題
おぉΣ(゚∀゚*)
読んでいただけて感謝です!

あ、いやいや。
こっちサイドは怖い話じゃ無いですよ。
ほのぼの系ですからっ。
*COMMENT FORM-コメント投稿-
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