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4.
「482年 6月10日 雨
焔先生との商談もまとまり、ようやく一息つける。
この後はどうしようか。大月に戻ってもいいが、掘り出し物を見つけに弧月へ向かうのも、紅蓮塞からなら近い。
どうせ帰っても一人だ。それならいっそ、小旅行気分で弧月に行くのも悪くない。
決めた。弧月に行こう。
482年 6月19日 曇り
ようやく弧月に着いた。こう雨続きでは、整備された街道でも歩くのが困難になってしまう。
弧月はやっぱり、古美術商には垂涎の街だ。あっちこっちに遺跡があるから、掘り出し物が一杯あって、すごく楽しい。
とりあえず今日は宿でゆっくりして、明日から露店などを見て回ろう。
482年 6月21日 雨
すごい掘り出し物、発見! 古代の魔術を記した本!
クリスに売れば、どれだけの値が付くのか! ううん、それより! とっても面白いことが書いてあった。
帰ったら、試してみよう。こう考えると、大月に帰りたくて、仕方なくなってきた。
とりあえずもう一日、露店めぐりをしようかな。橘さんのお店も美味しかったし、また行ってみよう。
482年 7月9日 晴れ
わくわくして仕方が無い。私に、家族ができるなんて!
名前は雪乃と、花乃と名付けた。もちろん、私の名前から取った。まだ術の効果が出てまも無いためか、雪乃たちの動きはのろい。いや、赤ちゃんだから、かな?
赤ちゃん。私に、赤ちゃん。
こうして文字に書くだけで、震えるほど嬉しい」
「雪乃……。やっぱり、雪花さんは雪乃さんのお母さんだったんですね」
「いや待て、良太。おかしいぞ、これ」
読み進めていた晴奈は、矛盾点を指摘する。
「師匠が7月に生まれたとするならば、6月はまだ、雪花殿は身重だったはずだ。そんな体で、紅蓮塞やら何やらに行けるか?」
「え? ……おかしい、ですね?」
「それに、6月の時点では家族がいない、とある。独身からいきなり、2人の子持ちだと?」
「話が、見えないですね」
良太は食い入るように、日記を見つめている。晴奈はさらに、気になる点を指摘した。
「あと、師匠には花乃と言う姉妹がいることになるな。師匠からそんな話を聞いたこと、あるか?」
「無い、です」
「術と言うのも、気にかかるが……。何がなにやら、見当が付かぬ。ともかく先を、読んでみよう」
「482年 10月2日 晴れ
雪乃も花乃もすくすく成長している。
ハイハイできるようになった。もう、可愛くて仕方ない!
ご飯もよく食べるし、健康そのもの。やっぱり、この子達を作って正解だった。
私、幸せ!
482年 11月1日 曇り
クリスがやってきた。あの魔術書の買い取りに来てくれたのだ。もう使いたい術は使ったのだし、売ることにした。287200クラムで交渉成立。玄銭に換算して、200万以上は軽く超える。本の値段としては、相当な儲けになった。
ついでにクリスと食事。儲けさせてくれたお礼に全額おごらせてもらおうとしたが、『次の商売の時、またお世話になるから』と、割り勘になった。
さすが、金火狐一族。顧客は大事、ってわけね。
482年 12月18日 雪
花乃がしゃべった!
私のこと、お母さんって言ってくれた! 嬉しい! 可愛い! 大好き!
483年 1月1日(双月節) 晴れ
あけましておめでとう。今年もよろしくね、雪乃、花乃。
花乃からちょっと遅れて、雪乃もしゃべれるようになった! 本当、嬉しい!」
「あ、の……」
「ああ……」
晴奈も良太も、同じ箇所を指差している。
「作った、って」
「それに、魔術は使った、だ」
「まさか……」
「……続きを、読もう」
「485年 5月25日 晴れ
雪乃も花乃も、本当に可愛い。今日なんか、花の冠を二人して作って、私に贈ってくれた。感激! 大事にするからね!
追記、少し気になることがある。つま先が、軽くしびれている。揉み解しても、しびれはなかなか消えなかった。どこかにぶつけたかな?
485年 8月10日 晴れ
雪乃が転んだ。慌てて手当てしようと思ったら、膝から綿が出ていた。もう2年経つのに、まだ術は完璧ではないのだろうか? 早く、完璧になってほしいな。
そしてもう一つ、気になることが私自身にも。つま先のしびれがひどくなってきた。今度、お医者さんに診てもらおう。
485年 8月13日 雨
わけわからない なにがどうしたのよ
485年 8月14日 雨
わけが分からない。私の体に、大量の木片? しかも筋肉や骨と融合して、取り出すのは不可能? 聞いていて、ぞっとした。
私の不安が分かるのか、花乃がお茶を淹れ、雪乃が出してくれた。本当に、いい子たち。
あ、雪乃のケガはほとんど治ったみたい。良かった。
485年 9月6日 晴れ
モールとか言う、変な人に出会った。
怖かった。いきなり「キミ、人形になりかけているね」なんて言ってくるんだもの。でも、その人の言葉は、痛いほどよく分かった。
魔術には、代償を必要とするものもあるのだと、ようやく気付かされた。私は人として、踏み込んではいけない領域に入ってしまったのだ。
私は家族がほしい、ただそれだけが願いだったのに。
雪乃と花乃が泣いている私を見て、つられて泣き出してしまった。ゴメンね、二人とも。
485年 9月7日 曇り
モールを家に泊めて、二日目。
雪乃と花乃の遊び相手になってくれるし、結構いい人なのかな? でも、子供たちにデコピンしたり、「人形ちゃん」と呼びかけたりするのはやめてほしい。
二人とも、れっき―――――――
れっ き と した 人間 ―だ か ら。
手、痛く ―なっ て ―き た」
良太は震えている。晴奈も、ダラダラと汗が流れっぱなしだ。
「これ、って……」「待て」
言いかけた良太の口を、晴奈が押さえる。
「……師匠」
晴奈がぽつりとつぶやいたその一言に、身を震わす者が二名いた。
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