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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・琴線録 5

晴奈の話、62話目。
良太の見せ場。


5.
「知ってしまったのね……」

 物陰から柊が現れた。ひどく悲しそうな顔から、ポタポタと涙が流れている。

「ゆ、雪乃さん」

「……」

 一言発したきり、柊は何もしゃべらない。

「その、僕はあなたを助けようと……」「……」

 良太が何か言おうとするが、言葉にならない。

「……その、あのっ」「もういいわ」

 凍りつくような声で、柊が良太の弁明をさえぎった。

「そうよ。わたしは、人形だった。31年前、は。それを人間に変えたのは、母さん。魔術で人形を、人に変えたのよ。

 でもその魔術は、代償が必要だった――術の使用者を、人間から人形に変えると言う」

「雪乃さん……」

「家元も、わたしの出自はご存知よ。母が動けなくなる直前、ここに来たから。母はすべてを家元に伝えたわ。

 魔術で家に飾っていた人形を、人間に変えたこと。ある人物から聞いた、代償のこと。そして数年のうちに、母は完全に人形になってしまうこと。

 でもそうなる前に、いくつかのお願いを家元にしたの。まず、心克堂地下道の修繕をする代わりに、その奥にかくまってほしい。次に、自分が人形になったことを誰にも知らせないでほしい。そして――わたしを、自分の代わりに育ててほしいと」

 柊は顔を伏せ、その場にうずくまった。

「知らないでほしかった……! 良太に、知ってほしくなかった……! 折角、いい人にめぐり合えたと思ったのに、何で! 何で、知ってしまうのよ!?」

「雪乃さん、僕は」

「もうおしまいよ……! 母の代わりに生きているなんて、わたしはあまりにも呪われている! わたしはもう、生きていけないのよ……」

 柊はそこまで叫んだところで、急に立ち上がる。そして、背を向けて走り去っていった。

「ゆ、雪乃さん!」

 良太も――普段のとろくささが、嘘のように――急いで、後を追いかけた。

 残った晴奈は追いかけようとも考えたが、途中で足を止めた。

(二人の問題だ。私が行って、どうなる? 二人で、解決しなければならぬことなのだ。

 それよりも、優先すべきは)

 晴奈は地面に落ちた日記を取り、もう一度読み始めた。

 

 

 

「485年 9月16日 雨

 モールは思っていたよりずっと、いい人だった。私の治療をしてくれたのだ。

 いや、厳密に言えば魔術の応用を教えてくれた。動かないものを、動かせるようにする術。それで何とか日記も書けるし、ゆっくりとだが歩けるようになった。

 モールによれば、これも一時的な処置であるらしい。1、2年経てば、その術でも動けなくなるのだそうだ。脳まで、人形になって。

 絶望しそうだ。私の余命は、あと1年。雪乃や花乃が成長する様を、それ以上見られないのだ。いや、もっとはっきり言えば、幼いこの子たちを遺して、私は死んでしまうのだ。

 何とかできないかと、モールに頼み込んだ。答えは「無理だね」。術を解除すれば、あるいは助かるのかも知れないと言うのだが、それはすなわち、子供たちの死を意味する。

 それ以外の方法は、無い。そう、はっきり言われた。

 悲しい。体がバラバラになりそうなほど、悲しい。どうしようもないのだろうか?

 

 485年 9月17日 曇り

 クリスが来た。モールとともに、私の体と、子供たちのことを告白した。

 やっぱり、驚いていた。そうだよね、普通。

 モールが本はまだ持っているのかと尋ねたが、答えは×。すでに、ある名士のところに渡ってしまったのだそうだ。買い戻すのは、至難の業だろう。モールは「それがあれば、何とかできたかもしれないね」と言ってくれたが、私はもう、諦めた。

 託そう、子供たちを。このままでは私だけではなく、子供たちも死んでしまう。

 クリスに頼み込み、子供たちを引き取ってくれないかどうか聞いてみた。だが、残念ながらどちらか一人しか、無理だと言う。金火狐一族とは言え、クリスは末席。子供2人を抱えられる財力も地位も、持っていないのだそうだ。

 結局、クリスには花乃だけを託した。クリスは責任持って、育ててくれると約束してくれた。

 本当に、良かった。花乃をお願いね、クリス。

 

 485年 9月30日 晴れ

 モールに助けてもらって、何とか紅蓮塞まで来られた。本当に最後までありがとう、モール。

 焔先生に事情を説明し、雪乃を引き取ってくれないかとお願いした。先生は快く、引き受けてくれた。これで心残りは無い。

 また、私をかくまってくれることを提案してくれた。私はそれを快諾し、今こうして地下にいる」

 

 

 

 日記は、そこで止まっていた。

(まあ、以後ずっとここにいれば、書くものは無いだろうな)

 晴奈はその後の頁を、ぱらぱらとめくる。後に続くのは、白紙ばかり――。

「お?」

 ではなかった。一頁に渡って、詩のようなものが書かれている。

 

 

 

「雪乃。花乃。

 ごめんなさいね。私の、遊び心のせいで。

 もしかしたら人形のまま、平穏に。永遠に。生きていけたかもしれないのに。

 でも、私は――」

 

 詩を読み終えた途端、晴奈の目からぽた、と涙が出た。

 

 

 

 地下道の出入り口で、良太はようやく雪乃に追いついた。

「ゆ、ゆきっ、のっ、さん」

「……」

 雪乃は振り向かず、梯子に手をかける。良太は持てる筋肉をすべて使い、柊に飛びつく。

「行かないで、雪乃さん!」「きゃっ!?」

 良太の飛び込みに引っ張られ、雪乃は梯子から落ちる。二人はそのまま、絡まるように地面に倒れこむ。

「やめて、良太……」「雪乃さん!」

 倒れこんだまま、上になった良太が雪乃に叫ぶ。

「雪乃さん! 雪乃さん! 行かないで、雪乃さん!」

「え……」

 良太は顔を真っ赤にしたまま、下に押さえ込んだ雪乃に叫び続ける。

「人形とか、人間とか、知らない! 僕は、人間じゃなく、雪乃さんが好きなんだ!」

「りょ……」

「今こうして触ってる雪乃さん、温かくて柔らかいし! この感触が綿とか、肉とか、そんなことどうでもいい!

 今ここにいる、雪乃さんが好きなんだ!」

 良太の心の叫びを聞くうち、雪乃も顔が赤くなっていく。

「でも、わたしは、母さんの……」

「雪花さんだってさあ! 雪乃さんに、幸せになってほしいって、きっと思ってますよお!」

 絶叫が、次第に嗚咽になっていく。

「そう、願わない、親なんて、いないでしょお……。そうじゃなきゃ、雪乃さんも、花乃さんも生まれなかったでしょお……」

 下で半ば、されるがままになっていた雪乃は、良太の下敷きになっていない左手で、良太を抱きしめた。

「……良太」

 雪乃も、いつの間にか泣いていた。

 

 

 

「雪乃。花乃。

 ごめんなさいね。私の、遊び心のせいで。

 もしかしたら人形のまま、平穏に。永遠に。生きていけたかもしれないのに。

 でも、私は。あなたたちを人間にしたこと、後悔してない。

 あなたたちは、私に多くの感動と、愛おしさを与えてくれた。

 そして、勝手な言い分かも知れないけれど。

 私は、あなたたちに無限の可能性を贈った。

 元気でいてね。

 幸せになってね。

 私のことは、気にしないでね。

 

 大好き」

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