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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・魔剣録 1

晴奈の話、96話目。
あのご夫婦が……。
 
 
 

1.
篠原との対決後、晴奈はエルスと明奈を伴って紅蓮塞へと戻ってきた。

「へぇー、ここが紅蓮塞かぁ。うわさには聞いてたけど、意外にのどかな街なんだね」

 市街地を見回すエルスに、晴奈は小さく手を振る。

「いや、ここはまだ市街だ。修行場はあそこになる」

 晴奈の指差す方を見て、エルスと明奈は同時に声を上げた。

「……へぇ」「何だか、物々しいですね」

「霊場だからな。それに、敵に攻め込まれることを想定し、迷路のような造りになっている。私から離れると、迷い込んでしまうぞ」

「はは、それは気を付けないとね」

 

 晴奈は情報収集のために紅蓮塞へ戻ったのだが、そこにエルスと明奈を連れて来たのは次の理由からだ。

 まず、エルスを連れて来たのは情報解析のため。明晰なエルスに情報を渡せば、自分では到達できない結論を導いてくれるかも知れない、と考えてのこと。それに彼自身が、行ってみたいと強く願い出たからである。

 そして明奈を連れて来たのは、自分と、自分の妹の身を案じてくれていた師匠、雪乃に挨拶をしたいからである。そしてもう一つ、雪乃からかつて「そんなに大事な妹さんなら、一度会ってみたいな」と言われていたこともあるからだ。明奈も「お姉さまの先生なら、一度会ってみたかったですし」と、それを快諾してくれた。

 

 

 

「まあ、本当に……」

 雪乃は明奈を見るなり、興味深そうな声を上げた。

「似てるわね。一回りちっちゃい晴奈、って感じ。晴奈が髪を下ろしたら、本当にそっくりかも」

「はは……、明奈が戻ってきてからずっと、そう言われます。子供の時分はあまり、そう評されることは無かったのですが」

 晴奈は照れくさくなり、しきりに猫耳をしごいている。その反面、エルスも興味深そうに雪乃を眺めている。

「こちらの外人さんは?」

「あ、申し遅れました」

 エルスはぺこ、と頭を下げて自己紹介をする。

「僕はセイナの友人で、エルス・グラッドと申します。お会いできて光栄です、ユキノさん」

 つられて雪乃も会釈する。

「あ、はい。えっと、ひいら、……じゃ無かった、焔雪乃と申します。晴奈の師匠で、この紅蓮塞で師範を勤めております」

「いやぁ、セイナの師匠と聞いて、美しい人を想像していましたが、それ以上ですね。非常にお優しい印象を受けます。とても柔らかな美しさが出ていますね」

 エルスの口が妙に回り出したことに気付き、晴奈が後ろから小突く。

「おい、エルス。言っておくが……」

「分かってる、分かってる。僕は人妻を口説いても、小さい子のいるお母さんは口説かないよ」

「あら……?」

 エルスの言葉に、雪乃は戸惑った。

「なぜわたしに、子供がいると? まだ晴奈にも、言ってなかったのに」

「え? 師匠、お子さんが?」

 今度は晴奈が目を丸くする。雪乃は顔を赤らめ、嬉しそうに、しかしまだ疑問の残った顔でうなずいた。

「ええ、1ヶ月前に産まれたの。あなたが塞を離れた頃には、まだわたしたちも気付いてなかったんだけどね。あーあ、驚かせようと思ったのになぁ」

 エルスが苦笑しつつ、種明かしをする。

「はは、折角の吉報に水を差してしまいまして……。

 まあ、人妻と言うことは先ほどの自己紹介で分かりました。央南人が名前を変えるのは概ね、結婚されるか襲名の時だけですから。そして指輪をはめていらっしゃるので、恐らくご結婚されたのだろうと推察しました。

 それでですね、お子さんがいらっしゃると言うのは……」

 エルスは自分の服をトントンと叩く。

「その着物、胸周りや帯の位置がこれまで着ていたであろう位置と若干、合っていらっしゃいませんね。この数ヶ月で何か、大きく体型が変わるようなことがあったと言うことです。その点とご結婚されている、と言うことと合わせて、そう予想させていただきました」

「まあ……」

 雪乃は口に手をあて、驚いた様子を見せた。

「随分、名探偵でいらっしゃるのね。……でも」

 雪乃はエルスに笑いかけ、たしなめた。

「人妻も、口説いちゃダメよ」

「はは、失礼しました」

 これもエルスの人心掌握術なのか、それとも雪乃が特別人懐っこいのか――二人は会って数分で、打ち解けた。

 

 続いて晴奈たちは雪乃に連れられ、良太と、雪乃たちの子供のいるところに向かった。

「良太は今、書庫に?」

「ううん、家元のところにいるわ」

「ふむ、家元にも用事があったところです。丁度良かった」

 晴奈たちは焔流家元、重蔵の部屋の前に立ち、戸を叩いた。

「失礼します、家元」

「お、その声は晴さんじゃな。久方ぶりじゃの、入りなさい」

「はい」

 戸を開けると、重蔵が耳の長い赤ん坊を抱いて座っていた。横には良太もいる。

「姉さん。お久しぶりです」

「久しぶりだな、良太。……家元、長らく留守にいたしまして」

「おうおう、構わん構わん。……して、後ろのお二人は?」

 晴奈の後ろにいたエルスと明奈が、前に出る。

「お初にお目にかかります。エルス・グラッドと申します。諸事情あって、北方からこちらに移住しました。現在、対黒炎教団隊の総司令を務めております」

「初めまして、焔先生。黄晴奈の妹の、明奈と申します」

「ほうほう、大将さんに晴さんの妹さんとな? これはまた、興味深い面々が参られましたな」

 重蔵は子供を良太に渡し、立ち上がって一礼した。

「拙者、焔流家元、焔重蔵と申します。

 して、晴さん。ここに戻ってきたのは単に、良太たちの娘を見に来ただけではあるまい?」

「はい、実は……」

 晴奈は表情を改め、重蔵にゆっくりと尋ねた。

「篠原龍明と言う剣士について、何かご存知ではありませんか?」

「……篠原じゃと?」

 途端に、重蔵の目が険しく光った。

「ご存知でいらっしゃいましたか」

「存じている、どころか……」

 重蔵は吐き捨てるように答えた。

「あやつはこの紅蓮塞を潰そうとしたのじゃ。忘れるわけがなかろう!」

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