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1.
「リョータ君、奥さんとはどうなの?」
「ふえ?」
紅蓮塞の廊下を歩いていたエルスは、横で案内してくれている良太に尋ねてみた。
「アツアツ?」
「え、えっと、まあ、……はい」
恥ずかしがる良太の反応が面白く、エルスはさらに聞き込んでみる。
「そっかー、そうだよね、お子さんもいるし。結婚して、何年くらい?」
「えーと、2年……、くらいです」
「じゃ、まだ新婚さんだね~」
「ええ、はい」
エルスは腕を組み、しみじみとした口調になる。
「その若さで、あんなキレイな奥さんと子供もいて、しかもこの城の主に、すごく近い身。権力も持っている。うらやましくなっちゃうな、はは……」
「そんな、僕なんて……」
良太の顔が、少し曇る。それを横目でチラ、と見たエルスはさらりと話題を変える。
「(おっと、この話題は地雷だったかな?)あ、そう言やセイナから聞いたんだけどさ、ここの書庫ってかなり大きいんだよね?」
「え? ええ、少なくとも央南西部では、随一の規模らしいですよ。おじい様のおじい様くらいから、僕みたいに本が大好きな方がずっと、家元として続いていたそうですから」
「へぇ……」
晴奈がひたすら重蔵から教わった奥義「炎剣舞」を体得しようと躍起になっていた頃、エルスは天原の素性や天玄の妖怪事件、篠原の過去などを調べるため、良太に頼んで書庫へと案内してもらっていた。
「ここが書庫です」
「おー……、確かに大きいなぁ」
中を覗きこみ、エルスは感心した。
(てっきり、道楽家の書架みたいなのを想像していたけれど……。これは確かに、王国の資料室に勝るとも劣らない規模だなぁ。書庫番のリョータ君についてきてもらって正解だった)
「えーと、それじゃ……、名士録って、あるかな?」
「う、……名士録、ですか」
良太が一瞬嫌そうな顔をしたので、エルスは首をかしげた。
「……? 何か、名士録に嫌な思い出でもあるの?」
「い、いえ。えっと、こっちです」
良太はプルプルと首を振り、書庫の中を案内してくれた。
「『天原桂(あまはら けい) 狐獣人 男性 475~ 天原財閥宗主、第41代央南連合主席』。……これだけ、かぁ。もうちょっと、詳しい資料は無い?」
「うーん、もう少し詳しいもの……、あ、これなんかどうでしょう?」
良太は席を立ち、何冊かの本をすぐに持ってきてくれた。
「ふむ……、『天原家の歴史 ~央南の名家 五~』、『天原篠語録』、『天玄時事 506~510年・511~515年』、『国際魔術学会会報 第906号(499年上半期) 央南語訳版』、……何で会報?」
「あ、天原氏がここに論文を寄稿していたんです」
「……へぇ。リョータ君、もしかして書庫の本、全部読んでるの?」
良太は恥ずかしそうに笑ってうなずく。
「はい、一通り読みました」
「さすが書庫番だなぁ。……後は、『央南連合議事録 第93号・第94号』と。ふむ……」
エルスは良太の持ってきてくれた本を、上から順に読み進めていく。
(『……天原家は黒白戦争直後、央南八朝時代に名を成した狐獣人、天原榊(旧名、中野榊)を起源とする……』。
『……次期当主のことを考えると億劫になる。どう見ても次男の櫟(いちい)の方が指導者として見れば優秀なので……』。
『……507年、天原家の当主であった天原篠氏が逝去(享年67歳)。次期当主には次男の櫟氏(26歳)が有力とされていたが失踪中のため、長男の桂氏(32歳)が当主と……』。
『……512年8月30日未明、天玄南区赤鳥町を歩いていた早田こずえさん(猫・女性)が路上で正体不明の動物に遭遇した。早田さんにけがは無く、動物も治安当局が到着した時には現場および付近におらず、近隣住民は不安な……』。
『……512年9月11日早朝、天玄川沿市在住の桐村惣太さん(短耳・男性)が仕事のため職場に向かう途中、正体不明の動物に遭遇、逃走し、警察に通報した。桐村さんにけがは無く、治安当局は先日、南区赤鳥町で起こった事件と関係があるのでは無いかと……』
『……天原桂(狐・男性 天神大学魔術院博士課程在籍)……幻術の効果集約プロセス②部分において、ある種の雷属性関数を用いたところ……3秒程度ではあるが幻覚(術使用者がその効果を予想、想像している内容)が実体化すると言う結果が得られ……錬金術の最終目標の一つ、生命創造への足がかりとなるのでは無いだろうか……』。
『……全会一致により、第41代連合主席に天原桂氏が選出された……今回、議員30名のうち18名が欠席と言う不安な事態となったが、天原氏の采配により混乱が抑えられ、今後の活躍に期待が……』。
『……黄海への黒炎教団侵攻と言う非常事態に見舞われ、今回の緊急会議は多大な緊張感をはらんでいた……天原主席の判断により武力介入は避け、教団との話し合いによる平和的交渉を行うことが決定された。現在黄海にて軟禁されている黄紫明氏に連絡を取り、上記の内容を伝えることに……』)
一通り読み終え、エルスは軽くため息をついて立ち上がった。
「ああ……、疲れた。アマハラについては大体分かったから、戻ろっか」
「え? ええ、はい」
唐突に席を離れ、書庫を出たエルスを見て、良太も慌てて後についていった。
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