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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・魔剣録 3

晴奈の話、98話目。
続・少年漫画みたいな展開。
 
 
 

3.
晴奈は昔、焔重蔵が武器を持った姿を、二度見たことがある。

 一度目は、晴奈が入門した時。そして二度目は、良太が入門して間もない時。そのどちらも、重蔵は並々ならぬ気迫を持って、晴奈たちにその力を見せた。

 しかし、長年焔流家元として、多くの剣士たちの鑑とされた重蔵も、寄る年波には勝てないらしい。三度目に見た、その刀を持った姿は――。

(……老いた、か)

 背筋こそしゃんと伸びているものの、まくられた袖から見える腕は筋肉が落ち、大分しわがより、皮膚が垂れ下がっている。その老いさばらえた姿に、晴奈は少なからず落胆していた。

「ふぃー。すー……、はー……」

 修行場の中央に立った重蔵は腕を大きく振り、深呼吸を始める。非常にゆっくり、一呼吸に10秒近く時間をかけている。

(随分、深い呼吸だ。気合いを、入れているのだろうな)

「すぅー……、はぁー……」

 重蔵の呼吸が、依然ゆっくりとしながらも荒くなっていく。そこで晴奈は重蔵の変化を、視覚的に確認した。

(む……? 家元の、体が……?)

 重蔵の体が一呼吸ごとに、大きく見える。

 よくよく見てみれば、体の大きさは元のままだ。だが、体を取り巻く「空気」――剣気とでも称せばいいのか――が、じわじわと重蔵の体から広がっていくのが見えた。

「はあぁー……。

 晴さん。目を見開き、耳をそばだて、肌をあわ立てて、良く感じなされ。今のわしには一度しか、できん技じゃからのう」

 重蔵は晴奈に背を向け、刀を構えた。

 

 空気が弾ける音が聞こえた。

 ぼむ、と硬い鞠のはじけるような、空気の震える音。

 そして立て続けに、地面が爆ぜる音。

 凝らした晴奈の眼には、重蔵の姿が飛び飛びに映る。

 恐るべき速度で、剣舞を舞っているのだ。

 空気の弾ける音は、刀を振るう音。

 地面の爆ぜる音は、地面を蹴る音。

 そして重蔵が立ち止まった瞬間、晴奈は空気が燃え立ち、弾け、切り裂かれたのを、その眼で確かに見た。

 

「……!」

「こ、これが、『炎剣舞』、じゃ。ハァハァ……。基本は、焔流剣技『火刃』、『火閃』、そして、『火射』の組み合わせ、じゃが……、ゼェゼェ、太刀筋ごとの、絶妙の、機を見切り、連携させる、ことで……、このように、空気は、瞬時に、煮える。

 その猛烈な熱を、刀に込め、敵に浴びせれば、……ゴホ、ゴホッ」

 重蔵が咳き込み、地面に膝を着く。晴奈は慌ててその身を抱きしめ、介抱した。

「い、家元!」

「す、すまんが晴さん、ちと、疲れた。部屋まで、負ぶっていってくれんかの」

 

 

 

「おじい様、もう歳なんですから無茶しないでくださいよ~」

 部屋に運ばれるなり横になった重蔵を心配し、良太が駆けつけた。また人払いをし、二人きりになったところで、重蔵は横になったまま恥ずかしそうに笑う。

「はは……、面目ないわい。予想以上に、力が落ちておった。まあ、しかし。晴さんに我が奥義を余すところなく見せられただけ、重畳と言うものじゃ」

「大げさですよ、もう……」

 思っていたより重蔵が大丈夫そうだったので、良太は重蔵のそばを離れ、部屋に戻ろうとした。

「……良太」

 不意に、重蔵が呼び止める。

「何でしょう?」

「もしわしが……、近いうちに亡くなったら」

「ちょ、縁起でもないですよ、おじい様」

「聞け。……わしが亡くなったら、雪さんを当面、家元代理にしておいてくれ。お前たちの子が成人し、免許皆伝を得るまでは」

「雪乃さんを……?」

「雪さんはしっかりした人間じゃし、腕も立つ。彼女なら、紅蓮塞を支えられるじゃろう」

 良太は困った顔で、じっと重蔵を見る。

「……おじい様、気落ちしすぎですよ。根が頑丈なんですから、まだまだ長生きしますよ」

 そのまま、良太と重蔵は見つめあい――重蔵が根負けした。

「……はは、ま、そうじゃな。くだらんことを言うてしもうたのう」

 

 晴奈は重蔵を運んだ後、また修行場へと戻っていた。

(『炎剣舞』……)

 刀を構え、重蔵の動きを頭の中で繰り返す。

(太刀筋の連携と、呼吸、動作の緩急から生まれる、絶大な威力の集約、集合)

 まずは、覚えている限りで刀を振るい、その動作を真似る。刀に火を灯し、一振りごとに焔流剣技を繰り出す。

(まずは『火刃』。最も基礎、基本の『燃える剣閃』)

 刀を振るうと、わずかに炎がたなびき、その紅い筋を刀の後ろに一瞬、残す。

(続いて『火閃』。瞬時に熱をばら撒き、空気を焼く『爆ぜる剣閃』)

 一振りすると、一拍遅れて爆音が響く。空気が膨張し、爆発しているのだ。

(そして『火射』。地面を伝い、炎を敵にぶつける『飛ぶ剣閃』)

 振り下ろした瞬間地面に炎が伝わり、そのまま黒く焦げた軌跡を残して火柱が走る。

(この三種の連携、……と言うが)

 汗だくになるまで何十回と振るってみたが、重蔵のように辺り一面煮え立つと言うようなことは、一向に起こらない。

(……難しいな、まったく)

 

 その日一日中、晴奈はずっと「炎剣舞」の習得に励んだが、残念ながら一度も、晴奈の満足が行くような出来には至らなかった。

 多少の不安を残したまま、この日の修行は終わった。

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