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2.
「姉さん……」
「お? どうし……」
いきなり、良太が晴奈の部屋に飛び込んできた。
「姉さん、僕、どうしたら……」
「待て、落ち着け良太。何がなんだか分からぬ」
「うっ、うえええ……」
今度はいきなり、泣き出す。とりあえず晴奈は良太を部屋に入れ、そのまま泣かせておいた。
「落ち着いたか?」
「は、はい……」
手拭を差し出しながら、晴奈は呆れていた。
「まったく、お前は毎度毎度、唐突だな」
「すみません」
「で、何があったんだ?」
良太は涙を拭きながら、柊に雪花の話をしたところ、突然激怒されたことを話した。
「お前も唐突なら、師匠も唐突だな。そこまで怒るとは……?」
「やっぱり何か、関係があるんでしょうか?」
「無けりゃ、怒る理由がない。……気になるな」
晴奈は良太が抱えていた本を手に取り、雪花の頁をめくる。
「姉さん、あの」
「何だ?」
良太は困った顔で、晴奈を止めようとする。
「雪乃さんは、絶対このことには触れるなって」
「だから?」
「……調べちゃ、いけない気がするんです」
晴奈はため息をつき、良太の手を取る。
「いいか、良太。お前は、柊雪乃と言う女性にとって、どんな存在だ?」
「え? ……その、恋人、ですけど」
「その恋人が、苦しんでいたらどうする? 放っておくのか?」
良太はぶんぶんと首を振り、否定する。
「そんなわけ無いじゃないですか!」
「なら、助けてやれ。それだけ過敏に反応すると言うことは、ずっと苦しめられているのだ。その雪花と言う女との間にある、何かに」
「……」
まだ迷う様子を見せる良太に、晴奈は一喝した。
「良太! いいのか、お前は?」
「え?」
「このまま相手の心に当たりも障りもせず、安穏と過ごしていけると思うのか? 相手が隠しごとをし、それに苦しめられているのを知ったまま、それを黙殺し続けて二人とも、幸せになれるのか?」
「……!」
不意に良太は、先ほど宿場街で散策していた時に感じた、あの違和感を思い出した。
(あの感覚。雪乃さんが遠い、遠い存在に感じてしまうあの何とも言えないわびしさ。もしかしてその感覚は、この秘密が原因なんじゃないか?)
良太は晴奈の手を離し、本を手に取った。
「行きましょう、姉さん」
晴奈は良太の目に、何らかの力がこもったのを見た。
「……どこに、だ?」
「おじい様のところです。あの方は雪乃さんの師匠だったそうですし、ずっと昔から塞にいらっしゃる方です。雪乃さんと雪花さんにつながりがあるのなら、雪花さんのこともご存知かも」
「よく言った、良太。付き合ってやる、その調べもの」
晴奈はもう一度、良太に手を差し出す。良太は力強く、晴奈の手を握った。
(あの感覚を、消し飛ばしてしまいたい。僕はもっと、雪乃さんの近くにいたいんだ)
「あー……、うむ。知っておる」
晴奈と良太に雪花のことを尋ねられた重蔵は、困った顔をして答えた。
「じゃが、うーむ。これはのう、言えんのじゃ」
「なぜですか、おじい様」
「約束しておってな。その、柊雪花と言う女性と。
わしはその、雪花さんにまつわるあらゆることを、口にしないと約束しておるのじゃ。剣士の誇りにかけて、それは破れん」
「そんな……」
困った顔をする孫を見て、重蔵も困った顔で返す。
「じゃから、わしは言えんのじゃ。……すまぬ、良太」
「……はい」
祖父から聞き出すのは無理と見て、良太は仕方なく立ち上がった。晴奈も立ち上がり、部屋を後にしようとした、その時。
「もう一度言う。わしは『言えん』のじゃ」
ちゃりん、と金属音が響く。晴奈たちが振り返ると、重蔵が背を向けている。そのすぐ後ろに、何かの鍵が落ちていた。
「これは……」「では、失礼します。行くぞ、良太」
尋ねようとした良太を止め、晴奈は鍵を取って部屋を出た。良太も仕方なく付いて行き、今度は晴奈に尋ねる。
「何で聞かないんですか、姉さん」
「聞いて答えてくれる雰囲気だったか?」
「まあ、それは……」
「これが家元にできる、最大限の譲歩なのだろう。……ふむ」
晴奈は鍵を眺めながら、その使い道を思案する。
「普通の、真鍮の鍵だな。どこに使うのかも、書いていない。……片っ端から、調べてみるか」
晴奈と良太は倉中を回り、重蔵からもらった鍵に合うものを探したが、一向にそれらしきものが見つからない。
「これも、違うな」
「こっちも、大きさが全然……」
倉においてある鍵付きの箱や錠前に、片っ端から鍵を当ててみたが、それらすべてが合致しなかった。
「別の倉かなぁ」
「うーむ」
鍵を掌の上で転がしながら、晴奈はうなる。
「……はー。今日は切り上げよう。疲れた」
「そうですね……」
「一応、鍵は私が預かっておく。また明日、稽古と指導が終わったら鍵探しをしよう」
「分かりました」
他に手がかりが無く、この日は調査を終えた。
それから数日、晴奈と良太は鍵を探し続けたが、一向に鍵と合うものは見つからなかった。そしてその日も、晴奈たちは6つ目の倉で鍵探しをしていた。
「見つかりませんね……」
「そうだな……」
何も知らない者が見たらまるで荒らしているかのように、二人は倉の中をひっくり返し、引っ掻き回している。
「後片付けも、大変ですよね」
「ああ。まったく、面倒くさいことこの上ない」
そうは言いつつも、晴奈は熱心に鍵探しを続ける。良太が気がかりなのもあったが、何よりその、雪花と言う人物が気になって仕方ないのだ。
「もしかしたら……」
「はい?」
晴奈は自分の予想を、良太に話す。
「雪花と言う女性、師匠の縁者なのかも」
「ありそうですね、それ。もしかしたら、お母さんなのかな」
「ふむ」
二人があれこれ想像していると、カタ、と戸口から音がした。
「……あっ」
「……良太?」
倉の入口に、柊が立っていた。晴奈たちは話を聞かれたかと、冷や汗を流す。
「その、えっと」
「何か探してるの?」
ところが、柊は笑みを浮かべて尋ねてきた。どうやらまだ、雪花の情報を探っていることには気付いていないようだ。それを察した晴奈は急いで話を作る。
「あ、……ええ、家元からこの鍵に合う箱があるので探してほしい、と良太が頼まれまして。手間がかかりそうなので、私が手伝っている次第でして」
「あら、そうなの」
晴奈の話を信じた柊は倉の中に入ってきた。
「良かったら、わたしも手伝おっか?」
「あ、いやいや。お手を煩わせるわけには」
「ううん、わたしも暇だし、良太の手伝いなら喜んでするわよ」
離れようとしない柊に、晴奈たちはどうしようかと目配せする。
「あ、……うーん(どうしましょう、姉さん?)」
「そう、ですね……。(どうもこうもない。ここで断るのも変だろう?)では、お願いしてもよろしいでしょうか?」
柊はにっこりと笑い、袖をまくった。
「ありがとうございます、雪乃さん(こ、困ったなぁ)」
「助かります、師匠(何とかしないと修羅場になるな、これは)」
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