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「……あっ!?」
雪花との談話の途中で、橘が式の時刻を思い出し、思わず立ち上がる。
「店長さん、今何時!?」
「え? えっと、13時半ですね」
一人席の向こうで皿を拭いていた若い狐獣人の店主が、後ろにかけてあった時計を見て答える。確かに、針は二つとも上方を差している。
「いけない! 雪乃の結婚式、始まっちゃう!」
「あ、やべっ」
橘たち五人は慌てて席を立ち、店主にお金を払う。だが、雪花は席こそ立ったものの、五人とは距離を置いている。どうやら、ここで別れるつもりのようだ。
「ねえ、行きましょうよ、雪花さん」
柏木はまだ雪花を誘おうとするが、雪花は首を縦に振らない。
《いいえ、わたしはここで……》
「何でですか? 行ってあげても……」「いいよ、栄一くん。雪花さんにも、色々事情はあるんだろう」
謙は柏木を抑え、雪花に向き直る。
「じゃあ、俺たちは行くけど。何か伝言とか、あるかな?」
《え……、と。そう、ですね。では……》
雪花は少し黙り込んだ後、一言だけ伝えた。
《幸せになって、と》
店を出た五人は、すぐに大通りへと駆け出す。
「式って2時からよね?」
「ええ、確か」
「間に合うかなぁ」
「急ぎましょう!」
大通りの混雑は既に引いており、走れば十分に間に合いそうだった。
「しかし、奇遇ですよね」
「うん?」
走りながら、柏木がつぶやく。
「私たち全員、柊先生の知り合いで。しかもそのお母さんと、式の日に会うなんて」
「……どうでしょうね?」
棗は少し笑いながら、こう答える。
「もしかしたら、雪花さんがわたくしたちを引き寄せたのかも」
「はぁ……?」
まだ雪花が幽霊だったとは気付いていないらしく、柏木は棗の言葉が良く分からない、と言う顔をしていた。
神前式が済み、雪乃と良太は二人並んで、式場へと歩いていた。
「……ねぇ」
式場までの付き添いたちに聞こえないような小声で、雪乃が尋ねる。
「おじい様は、どうされたの? 確か神前式は、一緒に出るはずじゃ」
「それが、ですね」
良太も同じように、小声で返す。
「あんまり嬉しかったみたいで、酔っぱらって寝ちゃったんです」
「あら……」
雪乃は笑いそうになるのをこらえながら、良太の様子に気付いて手を握った。
「……ふふ、やっぱり緊張してる」
「そりゃ、しますよ」
「実は、わたしもさっき、あんまり緊張してたものだから、晴奈に手を握ってもらっていたの」
雪乃がそう言うと、良太は手を強く握り返してきた。
「じゃあ、僕が震えてる場合じゃないですね」
「あら、頼もしいわね」
「……ダメだ。やっぱり震えてきちゃう」
良太の言葉通り、雪乃の手に振動が伝わってくる。だが、握るのをやめようとはしない。
「でも、式場まで絶対、放しませんよ」
「ありがと、良太」
雪乃も強く、握り返す。
「じゃ、わたしも絶対、放さないから」
「ありがとう、雪乃さん」
手をつないだまま、二人は式場へと進んだ。
「はー、はー」
「今、何時?」
「13時、55分くらいですね」
「間に合ったー」
橘たち五人はなだれ込むように、式場に到着した。
「お、晴奈くんだ」
謙が上座の方に座っていた晴奈を見つけ、手を振って近寄った。
「あ、樫原殿! お久しぶりです!」
近寄ってきた謙に気付き、晴奈は深々と頭を下げた。
「いやいや、そんなかしこまらなくても。……まだ、始まってないよな?」
「ええ、そろそろ神前式も終わりますし、間もなく二人が来る頃かと」
「そっか、いやー、危ない危ない」
謙は汗を拭きつつ、晴奈の横の席を確認する。
「お、丁度良かった。俺たちの席っぽいな」
「あ、はい。この辺りはすべて友人席ですから」
「そっか。……確かに、さっき会った奴の名前がズラッとあるな。それじゃ棗とか、途中で会った奴とかも呼んでくるわ」
謙はまた立ち上がり、入口にいた橘たちを呼ぶ。
「おーい、ここに席取ってあるぞー」
「はーい、そんじゃ行くねー」
橘も手を振りつつ、晴奈の側に寄った。
「よいしょー、っと。……あら、晴奈ちゃん久しぶりー」
「お久しぶりです、橘殿。棗殿も、お元気そうで」
「ええ、お久しぶりね。ほら、桃もご挨拶なさい」
棗に背負われていた桃が、眠たそうに頭を下げる。
「むにゃ、こんにちは、……すー」
「あ、眠っちゃ……、すみませんね、この子疲れているみたいで」
「いえ、お気遣い無く。……と、柏木さん、お久しぶりです」
棗の後ろにいた柏木はぺこ、と頭を下げる。
「お久しぶりです、晴奈さん」
「元気そうで、なによりです。……楢崎殿は、まだ?」
「はい……。いまだに、行方はさっぱりです。今回の式にも、残念ながら代わりに私が、と言うことに……」
「そうですか……。早く戻ってこられるといいですね」
「ええ、本当に。……ささ、湿っぽい話はこのくらいにして」
柏木も席に着いたところで、式場が一瞬、静かになった。
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