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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・神算録 1

晴奈の話、105話目。
一抹の不安。
 
 
 

1.
天玄館の執務室に向かうと、すでに紫明とリスト、その他連合と対黒炎隊の幹部たちが集まっていた。

「……!? は、早いな、晴奈?」

 主席の椅子に座っていた紫明が、まるで幽霊を見たかのような顔で出迎えた。

「ええ、明奈が魔術でここまで送ってくれました。それよりも父上、状況は如何に?」

「ああ。まあ、現在は落ち着いている。

 つい数日前まで、天玄の東及び北東から多数の軍勢――姿を見た者によれば、黒炎教団の者だったそうだ――が攻め込み、その防衛にかかりっきりだった」

「教団が? それは少し、おかしくありませんか?」

 エルスが手を挙げ、質問する。

「教団の本拠地はご存知の通り、央南の最西部、屏風山脈にあります。攻め込むとすれば、西側からのはずですが。

 西側から東へ回りこんだにしても、北には天神湖が、南には天神川が伸びていますし、かなりの手間を負います。黒炎教団が来たにしては、つじつまが合わない気がしますが」

「私もそう思う。しかし、将たちからも確かに黒炎の者らしいと言う報告が上がっている。これまで何度も戦ったのだから、見間違いと言うこともあるまい」

「ふむ……」

 エルスは腕を組み、そのまま考え込む。紫明は晴奈に顔を向け、話を続ける。

「ここ3日ほど攻勢が激しく、後一息で押し破られるかと言うところだったが、昨日……」「アタシが計画してたアレが、やっと揃ったのよ。それで一斉攻撃して、撃退したの」

 紫明の横にいたリストが自慢げに笑っている。

「アレ、とは?」

「コレよ、コレ」

 リストは腰に提げていた銃を机の上に置いて、紫明の説明を継ぐ。

「コウ商会に頼んで、銃の量産をしてもらってたのよ。教団にはまだ、銃に対する戦法が確立されてないからきっと有効だろうって、アンタ言ってたし」

 考え込んでいたエルスが顔を上げ、リストに尋ねる。

「どうだったの?」

「アンタの言う通りだったわ。アイツら、すっごくビビッてた。あっと言う間に逃げて行ったわ」

 自慢気に語るリストを見て、エルスはもう一度尋ねる。

「全員?」

「ええ、みーんな。よっぽど怖かったのね、ホント田舎者だわ」

「うーん……?」

 エルスは手の関節を鳴らしながら考え込む。

「それだとかなり、マヌケな一団になっちゃうなぁ」

「はぁ?」

「戦略的に不利な東側から攻め込む。新兵器に驚いて全軍撤退。これじゃ何のために来たのか分からない。わざわざ大軍を率いてやって来る意味が無いと思うんだ」

「何が言いたい、エルス?」

 晴奈が尋ねてみたが、エルスは答えない。

「……うーん」

 

 ともかくリストが銃士隊を結成し迎撃したところ、敵はすべて撤退。一日経った現在は敵の姿も見えず、依然緊張状態が続いていると言う。

「また黒炎がやって来次第、銃士隊によって迎撃、撃退しようと考えているのだが、どうだろうか?」

「うーん」

 紫明が尋ねたが、エルスはまだ腕を組んだまま動かない。

「うーん、以外に言うことは無いのか」

「うーん」

 晴奈が声をかけても、一向に返事を返さない。

「いい加減にしなさいよ、アンタ呪いの置物かなんかなの?」

 リストが後ろから殴る。

「いたっ」

「いいの? 悪いの? どっちよ?」

「……うーん」

「うーんて言わないっ」

「あ、ゴメンゴメン。そうだな、何もしないよりはいいかな。何人いるの?」

「アタシを抜いて36人。4分隊ね」

「そっか。じゃあ、街の四方に配備して巡回してもらおう。っと、狙撃班はいる?」

「無いわ。製造のモデルにした銃が近接戦闘向けだったし。今造ってみてもらってるけど、実用化はまだ無理ね」

「じゃあ、巡回だけかな、今できるのは。あと、既存の軍にも厳戒態勢を執るよう伝えておいて。それじゃお願いするよ、リスト」

「りょーかいっ」

 リストは軽く敬礼して、執務室を後にした。

「妙に嬉しそうだったな、リスト」

「ああ、彼女は銃が大好きだから。半分趣味も入ってる」

「ふむ……。そうだ、エルス」

 晴奈は会って以来抱えていた疑問をぶつけてみた。

「今さらで少々恐縮なのだが、『じゅう』とは一体、何だ? リストが使っていたのを見たが、何がどうなっているのか、さっぱり分からぬ」

「んー、まあ簡単に言うと、火薬で弾を発射して、敵にぶつける器械だね」

 

 エルスによれば、銃が初めて造られたのはおよそ20年前、双月暦497年だそうだ。造ったのは央中の大商家、ゴールドマンと言う狐獣人の一族らしい。

 古代、戦争が行われていた頃、その戦争で活躍した一族が火薬を発明し、それを元にして爆弾を開発した。これをきっかけにして、爆弾よりもさらに効率性と携行性を重視した技術革新を進めていった結果、銃が開発されたのだと言う。

 ところが、使える者が限られているとは言え威力の高い魔術には見劣りし、安価で量産できる刀剣類に太刀打ちできる生産技術が確立できず、開発から数年で生産が終了してしまっていたのだ。

 こうして幻の武器となりかけていた銃をふたたび蘇らせたのが、ナイジェル博士である。接近戦において刀剣の殺傷力、携行性を上回り、魔術よりも汎用性が高いことに着目し、諜報員たちに持たせるように指示したところ、軍部が当初予想していたよりもずっと、作戦行動において効果が高いことが判明した。

 以後、北方では銃開発の歴史が始まり、また、博士の孫であるリストも感化され、リストにとって銃は切っても切れないものになっていた。

 

「ふむ。それでリストは、銃に対して思い入れが深いのだな」

「そう言うこと。……ふーん」

 エルスは机に置かれたままの銃を手に取り、眺める。

「『黄光一〇三号』、か。コウ商会ブランドの銃、第一号になりそうですね。……あれ」

「どうしました?」

 紫明が尋ねたが、エルスはすぐには答えず、銃を分解し始めた。

「ふーん。……へぇ。うーん。……コウさん、苦心されてますね」

「うむ、銃と言うのはうわさには聞けど、実物を見たのはチェスター君のものだけだったのだ。銃弾からして、製造が困難でな」

「でしょうねー……。まだ、大分粗い」

 銃を組み立て直しながら、エルスは少し不安そうにつぶやいた。

「薬莢の出来が粗くて、隙間があります。それに各可動部の噛み合わせも難がある。湿気があると、作動しないかも知れませんね」

「え……!?」

 紫明の顔が、ひどく不安そうに歪む。それを見ていた晴奈が思わず吹き出した。

「父上、心配性もほどほどにされねば。ここ数日は気温が下がり、空気も大分乾いております。気候も安定しておりますし、問題は無いでしょう」

「まあ、そうか……」

「それに私とエルスもおりますし、十分防ぎきれるでしょう。ご安心ください、父上」

 晴奈の言葉に、紫明はようやく表情を緩めた。

 対照的に、エルスは珍しく眉をひそめている。

(ちぐはぐな侵攻に、突然の撤退。精度の低い銃をたのみにする銃士隊。……何だか、不安だなぁ)

 エルスは何も言わず、執務室を出て行った。

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