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「皆さん、お疲れ様でした」
棗が謙と、柊たちに茶を差し出す。
作戦が終わったため帰宅した四人を、棗は簡単な食事と熱いお茶で労ってくれた。すでに4時を回っている現在までずっと起きていた棗に、謙は深く感謝した。
「すまんな棗、こんな時刻まで」
「いえいえ、ご無事で何よりです」
二人の様子を見ていた良太はなぜか、うらやましそうに見ている。
「いいですねぇ、何か」
「うん?」
「理想の夫婦、って感じです」
「はは、そうか?」
謙は嬉しそうに笑い、お茶を一息に飲む。
「まあ、俺にはできた嫁さんだよ、本当に」
「まあ、あなたったら」
棗は口元に手を当て、コロコロと笑った。
「そう言えば、二人の馴れ初めとか聞いてなかったわね。どうやって出会ったの?」
「ん? んー……」
ところが柊に質問された途端、二人は顔を見合わせて黙り込んでしまった。
「あ、あら? 何か、いけなかったかしら」
「あー、いや。悪いってわけじゃないんだが。うーん」
謙はもう一度、棗を見る。棗は少し困ったような顔を見せたが、口から手を離して説明してくれた。
「……まあ、主人と懇意にしてくださっている方ですから、秘密にしていただければ。
元々、わたくしは天玄のある名家の出だったのですが、少しばかり、家といさかいがありまして。そこで家を離れ、この街まで来たところで、謙と出会ったのです」
「まあ、巷じゃ良くある恋愛話、さ。……さあ、もう寝よう」
「ビックリしましたね。まさかここに来て、あんな話が待ってるなんて」
寝床を用意され、早速横になった良太が、唐突に口を開く。
「んあ?」
半分眠りかかっていた晴奈は、それにぼんやりと応える。
「そうだな、うん。しかし、幸せそうでいいじゃないか」
「そうですね、本当。……はあ」
「どうした?」
急にため息をついた良太に、晴奈が声をかける。柊からは反応が無いので、すでに眠っているらしい。
「僕、最近よく考えるんです。『幸せな家庭』って、あるのかなって」
「はあ?」
「おじい様と母はケンカの末、離れ離れになりました。そして母と父は、……亡くなって。僕は将来、樫原さんみたいに幸せな家庭が作れるのかなって」
晴奈は眠気が押し寄せる頭で、のたのたと答える。
「それは、まあ、難しいと思うぞ。お前は、仇討ちをする、だろう?」
「……はい」
「そんな危険なことを、しなければならん、そんな人生に、女子供を巻き込む、など」
「そうです、よね」
しんみりとした声が返ってきたが、すでに晴奈は眠っていた。
「うう、ん」
誰かがうめいている声で、晴奈ははっと目を覚ました。
(あ、いかん。良太の相談に乗っていたのに)
「すまない、りょ……」「りょう、た」
晴奈が良太に声をかけようとした矢先、その反対側――すなわち、柊の方から声が聞こえてきた。
(おっと、起こしたか?)
「りょうたぁ、ううん……」
突然、晴奈は尻尾をつかまれた。
「ひゃん!?」
妙な声が出てしまう。どうやら、柊が寝ぼけて自分の尻尾を触っているらしい。
「し、師匠、あの」「いかないでぇ」「にゃうっ!?」
妙に切なげな声で、柊が尻尾を引っ張る。
「あの、本当にお止めください」「だめぇ、いかないでぇ」「にゃーッ!?」
これでもかと強く引っ張られ、晴奈は思わず叫んだ。
「ふあ、ぁ……」
朝になり、自然に良太の目が覚めた。のそ、と起き上がり、何気なく晴奈たちを見た。
「……ちょっ」
良太の顔が真っ赤になる。柊が晴奈を羽交い絞めにして、嬉しそうな顔で寝息を立てていたのだ。一方の晴奈は、泣きそうな顔で眠っていた。
「……起こした方がいいかなぁ、これ」
「ごめんなさいね、晴奈」
「……いえ」
部屋の隅で尻尾の付け根を押さえてうずくまる晴奈に、柊が謝っていた。
(あれほど痛いとは、思いもよらなかった)
「わたし、変な夢を見ちゃって」
「どんな夢ですか?」
顔を洗い終えた良太が問いかけると、柊は顔を赤くしてバタバタと手を振った。
「いいのっ、何でも無いから」
「は、はあ?」
晴奈は何も言わなかったが、粗方の予想は付いていた。
(散々寝言で、『良太』だの『行かないで』だの言って私の尻尾を引っ張り倒していたから、恐らく良太が崖を踏み外して、命綱を師匠が握っていたとか、そんな夢だろうな。
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