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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・琴線録 2

晴奈の話、59話目。
謎が謎を呼ぶ。
 
 
 

2.
「姉さん……」

「お? どうし……」

 いきなり、良太が晴奈の部屋に飛び込んできた。

「姉さん、僕、どうしたら……」

「待て、落ち着け良太。何がなんだか分からぬ」

「うっ、うえええ……」

 今度はいきなり、泣き出す。とりあえず晴奈は良太を部屋に入れ、そのまま泣かせておいた。

 

「落ち着いたか?」

「は、はい……」

 手拭を差し出しながら、晴奈は呆れていた。

「まったく、お前は毎度毎度、唐突だな」

「すみません」

「で、何があったんだ?」

 良太は涙を拭きながら、柊に雪花の話をしたところ、突然激怒されたことを話した。

「お前も唐突なら、師匠も唐突だな。そこまで怒るとは……?」

「やっぱり何か、関係があるんでしょうか?」

「無けりゃ、怒る理由がない。……気になるな」

 晴奈は良太が抱えていた本を手に取り、雪花の頁をめくる。

「姉さん、あの」

「何だ?」

 良太は困った顔で、晴奈を止めようとする。

「雪乃さんは、絶対このことには触れるなって」

「だから?」

「……調べちゃ、いけない気がするんです」

 晴奈はため息をつき、良太の手を取る。

「いいか、良太。お前は、柊雪乃と言う女性にとって、どんな存在だ?」

「え? ……その、恋人、ですけど」

「その恋人が、苦しんでいたらどうする? 放っておくのか?」

 良太はぶんぶんと首を振り、否定する。

「そんなわけ無いじゃないですか!」

「なら、助けてやれ。それだけ過敏に反応すると言うことは、ずっと苦しめられているのだ。その雪花と言う女との間にある、何かに」

「……」

 まだ迷う様子を見せる良太に、晴奈は一喝した。

「良太! いいのか、お前は?」

「え?」

「このまま相手の心に当たりも障りもせず、安穏と過ごしていけると思うのか? 相手が隠しごとをし、それに苦しめられているのを知ったまま、それを黙殺し続けて二人とも、幸せになれるのか?」

「……!」

 不意に良太は、先ほど宿場街で散策していた時に感じた、あの違和感を思い出した。

(あの感覚。雪乃さんが遠い、遠い存在に感じてしまうあの何とも言えないわびしさ。もしかしてその感覚は、この秘密が原因なんじゃないか?)

 良太は晴奈の手を離し、本を手に取った。

「行きましょう、姉さん」

 晴奈は良太の目に、何らかの力がこもったのを見た。

「……どこに、だ?」

「おじい様のところです。あの方は雪乃さんの師匠だったそうですし、ずっと昔から塞にいらっしゃる方です。雪乃さんと雪花さんにつながりがあるのなら、雪花さんのこともご存知かも」

「よく言った、良太。付き合ってやる、その調べもの」

 晴奈はもう一度、良太に手を差し出す。良太は力強く、晴奈の手を握った。

(あの感覚を、消し飛ばしてしまいたい。僕はもっと、雪乃さんの近くにいたいんだ)

 

 

 

「あー……、うむ。知っておる」

 晴奈と良太に雪花のことを尋ねられた重蔵は、困った顔をして答えた。

「じゃが、うーむ。これはのう、言えんのじゃ」

「なぜですか、おじい様」

「約束しておってな。その、柊雪花と言う女性と。

 わしはその、雪花さんにまつわるあらゆることを、口にしないと約束しておるのじゃ。剣士の誇りにかけて、それは破れん」

「そんな……」

 困った顔をする孫を見て、重蔵も困った顔で返す。

「じゃから、わしは言えんのじゃ。……すまぬ、良太」

「……はい」

 祖父から聞き出すのは無理と見て、良太は仕方なく立ち上がった。晴奈も立ち上がり、部屋を後にしようとした、その時。

「もう一度言う。わしは『言えん』のじゃ」

 ちゃりん、と金属音が響く。晴奈たちが振り返ると、重蔵が背を向けている。そのすぐ後ろに、何かの鍵が落ちていた。

「これは……」「では、失礼します。行くぞ、良太」

 尋ねようとした良太を止め、晴奈は鍵を取って部屋を出た。良太も仕方なく付いて行き、今度は晴奈に尋ねる。

「何で聞かないんですか、姉さん」

「聞いて答えてくれる雰囲気だったか?」

「まあ、それは……」

「これが家元にできる、最大限の譲歩なのだろう。……ふむ」

 晴奈は鍵を眺めながら、その使い道を思案する。

「普通の、真鍮の鍵だな。どこに使うのかも、書いていない。……片っ端から、調べてみるか」

 

 晴奈と良太は倉中を回り、重蔵からもらった鍵に合うものを探したが、一向にそれらしきものが見つからない。

「これも、違うな」

「こっちも、大きさが全然……」

 倉においてある鍵付きの箱や錠前に、片っ端から鍵を当ててみたが、それらすべてが合致しなかった。

「別の倉かなぁ」

「うーむ」

 鍵を掌の上で転がしながら、晴奈はうなる。

「……はー。今日は切り上げよう。疲れた」

「そうですね……」

「一応、鍵は私が預かっておく。また明日、稽古と指導が終わったら鍵探しをしよう」

「分かりました」

 他に手がかりが無く、この日は調査を終えた。

 

 それから数日、晴奈と良太は鍵を探し続けたが、一向に鍵と合うものは見つからなかった。そしてその日も、晴奈たちは6つ目の倉で鍵探しをしていた。

「見つかりませんね……」

「そうだな……」

 何も知らない者が見たらまるで荒らしているかのように、二人は倉の中をひっくり返し、引っ掻き回している。

「後片付けも、大変ですよね」

「ああ。まったく、面倒くさいことこの上ない」

 そうは言いつつも、晴奈は熱心に鍵探しを続ける。良太が気がかりなのもあったが、何よりその、雪花と言う人物が気になって仕方ないのだ。

「もしかしたら……」

「はい?」

 晴奈は自分の予想を、良太に話す。

「雪花と言う女性、師匠の縁者なのかも」

「ありそうですね、それ。もしかしたら、お母さんなのかな」

「ふむ」

 二人があれこれ想像していると、カタ、と戸口から音がした。

「……あっ」

「……良太?」

 倉の入口に、柊が立っていた。晴奈たちは話を聞かれたかと、冷や汗を流す。

「その、えっと」

「何か探してるの?」

 ところが、柊は笑みを浮かべて尋ねてきた。どうやらまだ、雪花の情報を探っていることには気付いていないようだ。それを察した晴奈は急いで話を作る。

「あ、……ええ、家元からこの鍵に合う箱があるので探してほしい、と良太が頼まれまして。手間がかかりそうなので、私が手伝っている次第でして」

「あら、そうなの」

 晴奈の話を信じた柊は倉の中に入ってきた。

「良かったら、わたしも手伝おっか?」

「あ、いやいや。お手を煩わせるわけには」

「ううん、わたしも暇だし、良太の手伝いなら喜んでするわよ」

 離れようとしない柊に、晴奈たちはどうしようかと目配せする。

「あ、……うーん(どうしましょう、姉さん?)」

「そう、ですね……。(どうもこうもない。ここで断るのも変だろう?)では、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 柊はにっこりと笑い、袖をまくった。

「ありがとうございます、雪乃さん(こ、困ったなぁ)」

「助かります、師匠(何とかしないと修羅場になるな、これは)」

 

 

 

 三者三様、様々な思いを抱えつつも、鍵探しは進められた。だが、10以上あった塞内の倉をすべて回っても、ついに鍵の合う箱は見つけられなかった。
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