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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・夢幻録 5

晴奈の話、68話目。
あの人も再登場。
 
 
 

5.
「先生、起きてくださいねー……」

 誰かが、声をかけてくる。

「う、ん……、お、っと」

 重蔵は重たいまぶたを、どうにかこじ開ける。

「しまった、寝てしもうたか」

「はい、お水をどうぞ」

「……?」

 目の前には、若い狐獣人の店主がいる。そこはなぜか、喫茶店だった。

(はて……? わしは確か、催事場で良太に、夫婦の何たるかを教えておったような気がしたんじゃが?)

「大丈夫ですね?」

 店主が心配そうに見つめてくる。重蔵は心配ないと言う代わりに、出された水をぐい、と飲んだ。

「……ぷはっ。……これは、名水じゃな」

 一息に飲んで、重蔵の目はぱっちりと覚めた。

「酔い覚ましの水は格別にうまいものじゃが、それを差し引いても抜群にうまい」

「ええ。大分深いところから、水を引き上げていますからね」

「そうか、そうか」

 酔いが引いてきた重蔵は、周りをくるっと見渡した。

「……おや?」

 深緑の着物を着た、見覚えのあるエルフが、「狐」の女の子を膝に乗せて、壁際の席に座っている。

「おう、雪さんじゃないか」

《あら》

 声をかけられたエルフは顔を上げ、重蔵に笑いかけた。

《お久しぶりです、焔先生》

「……おや? 雪さん、ではないな?」

 顔立ちは自分の愛弟子、雪乃に良く似てはいるが、良く見れば別人である。

「……まさか」

 エルフの着ている着物には、見覚えがある。かつて紅蓮塞へ調度品を売りに来ており、そして自分の娘を預け、そのまま塞の地下にかくまった女性が、同じものを着ていたような――。

「柊先生、か?」

《覚えていてくださったのですね、焔先生》

 重蔵の額に、ぶわっと汗が広がる。

(まさか、わしは死んだのか?)

「いいえ」

 重蔵の様子を察した店主が、下を向いたまま口を開く。

「ここは現実から、少し離れた世界ですね。先生は酔ったまま眠ったから、こちらに一時、お越しになったようですね」

「そ、そうか」

 重蔵は自分の胸に手を当てる。ちゃんと、鼓動が伝わってくる。

(確かに、生きておるようじゃな)

「こちら、どうぞ」

 店主が差し出した手布を受け取り、額の汗を拭う。

《今日は本当に、雪乃に縁のある方が集まってきますね》

「ふむ。まあ、式じゃからのう、今日は」

 平静を取り戻してくると、この状況にも気楽に振舞えるようになってくる。重蔵はとりあえず、30年ぶりに見る友人と話をすることにした。

「まあ、変わっとらん……、と言うのは当たり前かのう」

《そうですね、ふふ》

「先生は確か、42で亡くなられて……」

《ええ、そうです。重蔵さんは、大分お年を召したようですね》

「それも、当たり前じゃ」

 いつの間にか店主が差し出したお茶を飲みながら、重蔵は笑う。

「あれから何年経ったことか。あの頃幼かった雪さんが、もう人の妻になる歳じゃろ。時が経つと言うのは、時々恐ろしくなるくらいに、早いものじゃ」

《本当に、その通りね。

 この30年、ずっとお堂の下で過ごしてきたけれど、入門したての子が何年かして、免許皆伝の試験でまたやって来た時、いつも驚くもの。みんな、あんまりにも背格好が変わってしまうから》

 雪花もお茶を飲みつつ、思い出話を語る。

 と、雪花の膝で眠っていた女の子が、むくっと起き上がった。

「う……、ん。……あれ?」

 「狐」の女の子は、眠たげな目で辺りを見回す。

「あ、おばちゃん」

《おはよう、桃ちゃん》

「ここ、さっきのおみせ?」

《そうよ。眠っちゃったから、またこっちに来てしまったみたいね》

 雪花は桃の頭をなで、店主に声をかける。

《すみません、この子を帰していただいても、いいですか?》

「いいよ。……さ、こっち来な、桃ちゃん。お兄さんが、送ってあげるからね」

 店主はやや大儀そうに、雪花たちの方へ歩いてきた。

「ん……?」

 その力の抜けた、フラフラとした歩き方に、重蔵は既視感を覚える。

「もし、店主」

「うん?」

「以前、お会いしたことは無かったか?」

「ありますね。雪花を送った時、会いましたね」

 店主は重蔵に顔を向けず、多少気だるそうに答えた。

「……? いや、確かに柊先生を預かった時、付き添いがおったのは覚えておる。しかし、『狐』ではなかったような……?」

 そこでようやく、店主が振り向いた。

「ああ、あの時は『この姿』じゃありませんでしたね。確か、……何だっけ、雪花。あの時、私は『猫』だったっけ? 人間だったっけね?」

《『猫』だったわ。花乃が細い尻尾にじゃれ付いていた記憶があるから》

 雪花の返答を聞き、店主はポンと手を打つ。

「あ、そうそう。うん、『猫』だったね。あの時期、何やかやでしょっちゅう、体換えてたからねぇ」

 店主の話と妙な言葉遣いを聞くうち、重蔵の記憶が呼び覚まされていく。

「……思い出した。確か店主、あなたの名前は――モール、でしたな。

 何百年と生きる、旅の魔術師。時代によってその姿かたちは異なり、種族や性別すら異なることもあると言う……」「まあその辺で、ね」

 店主は肩をすくめつつ、重蔵の言葉をさえぎる。

「私のことは第三者ですし、気にしないでくださいね。

 桃ちゃんを送っていくので、その間じっくり、二人で昔話でもどうぞ」

 そう言うと店主は桃に手を差し出し、にこっと笑いかける。

「さ、桃ちゃん。お母さんのところ、帰ろうね」

「はーい」

 桃は素直にその手を握り、店主とともに店の奥へと消えた。

《……あの方、高名な魔術師なのに、とても子煩悩で。でもその分、大人にはひどく冷たいみたい》

「ほう。しかし何故、その高名な者がここで店など……?」

《さあ……? 気まぐれな方ですから、こう言う日にわたしを呼び起こすのも、一興かと思っているのかも》

 雪花は笑いながら席を立ち、重蔵の横に腰かける。

《今日一日はここにいられます。よろしかったら、ゆっくりお話を》

「うむ、そうしようか。……ふむ」

 重蔵は店主がいたところを探り、棚から酒を取り出した。

「茶もいいが、おめでたい日じゃ。やはりこちらの方が、話が進むわい」

《あら、こちらでもお飲みになるんですね、ふふ……》

 

 

 

「むにゃ……」

 式の途中から眠ってしまった桃は、むくっと起き上がった。

「おはよう、桃」

 すぐ側にいた棗が声をかけ、お茶を差し出す。

「おはよ、おかあさん」

 桃はまだ半分ほど、寝ぼけている。

「あれ? もーるさんは?」

「モール? ……誰、かしら?」

 きょとんとする棗には応えず、桃は辺りを見回す。

「あれ? ……おみせ、じゃない」

「もう、この子ったら寝ぼけて。……ほら、ちゃんと起きなさい。綺麗よ、花嫁さん」

 棗に抱えられ、桃は上座の新郎新婦を眺める。

 あちこちから酌を勧められ、祖父同様泥酔している良太はさておき、雪乃の方は非常に美しかった。化粧も整っており、酒を勧められて多少赤くはなっているものの、それがかえって艶っぽさを引き出している。

「わー……、せっかさん、きれい」

 雪花と雪乃の見分けが付かない桃の一言に、棗は苦笑した。

「桃、あれは雪花さんじゃなくて、雪乃さんですよ」

「……え?」

 横から、驚いたような声が漏れる。

「棗殿、今何と仰いました?」

 晴奈が目を丸くして、聞き返してきた。
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