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2.
「そうね……、世界の有名どころは、ほぼ回ったかしら。世界一の都市、クロスセントラル。央中の大都市、ゴールドコースト。それから……」「あ、あの、師匠」
晴奈は慌てて手を挙げ、話をさえぎる。
「ん?」
「すみません、私は、その……、央南から、出たことが無いもので」
「ああ、そっか。文化、違うもんね。じゃあ、そこら辺から説明しよっか。
晴奈が自分で言った通り、ここは『央南』――すなわち、中央大陸の南部地域。中央大陸はその名の通り、昔から歴史の舞台、政治の中央となってきた大陸なの。この大陸は大きな2つの山脈によって、3つの地域に区切られているわ」
柊は懐から紙を取り出し、中央大陸の絵――「し」の字に広がった、どこかモコモコとした形――をスラスラと描いていく。枠を描いたところで、全長の2分の3のところに山を表す線をすす、と描く。
「この下の方にある、鉤状に出っ張ったところが央南。晴奈も知っての通り、ここは『仁徳と礼節の世界』ね。『猫』や『虎』、『狐』、そしてエルフと言った人種が多く見られるわ。
まあ、説明するほどのこともあんまり無いから、この辺は飛ばして――そこから西へ進んだ、ここ。この一帯に、屏風山脈と言う山々が連なっているの。
この前戦った黒炎教団の本拠地、黒鳥宮はここにあるわ。教団は央中、つまり中央大陸中部からの文化も流れこんでいるから、名前や言葉も、それらしいものが多いみたいね」
「なるほど……。私と戦った『狼』の、あの、うい、ういう、……ウィルバーと言う名前も、その一端なのですね」
晴奈のたどたどしいしゃべり方に、柊はクス、と微笑んだ。
「そうね。それで、この屏風山脈を越えた先が、央中。
ここは『狐と狼の世界』とも呼ばれているわ。古代から栄える名家、王侯のほとんどが、『狐』や『狼』の種族だから、そう呼ばれているみたい。まあ、頭が良くて狡猾な『狐』と、親分肌、姐御肌で気が強い『狼』だから、大物揃いなのもうなずけるわ。
そのせいか、両種族の仲はちょっと、悪いみたいね。もし彼らのケンカに運悪く、居合わせたら……」
柊は人差し指をピンと立て、いじわるっぽく笑う。
「下手に仲裁しようとは、しない方がいいわよ。巻き込まれてひどい目に遭っちゃうから」
「はは、は……」
師匠の口ぶりから、きっとそのような状況に巻き込まれたことがあるのだろうと推察し、晴奈は苦笑した。
「そんな2種族が大多数を占める土地柄だからか、そこに住む人々はみんな、多少の違いはあれど計算高い人たちばかり。あまたの実力者たちが日々、自分が明日の王侯貴族、大商人になれる方法を考え、実践している。それもあって、栄枯盛衰の度合いは他地域の比じゃないわ。昔から代々続く家系、って言うのはかなり、稀な存在になっているわね。
だから、央中で代々続く名家って言うと、それはもう、かなり大きな家柄と言うことになるわけだけど、その中でも双璧をなすのが、世界一の大商家、『狐』のゴールドマン家と、世界中の職人の総元締めである、『狼』のネール家。この2家だけで、央中の財の半分以上を握っているそうよ」
「そんなに大きいのですか……、ふむ」
晴奈の実家も央南随一の大商家ではあるが、それでも父から聞いた話では、黄家が持つ富は央南全体の1割にも満たないと言う。
「さっき言っていたゴールドコーストと言う街が、ゴールドマン家の本拠地。その世界的財力と政治的影響力から、央中の政治と経済の中心地としてにぎわっているわ」
柊は地図の央中辺り、屏風山脈の南端に点を打ち、楽しそうに語る。
「観光地としても有名で、商人、政治家、資産家、傭兵や観光客に至るまで、世界中から様々な人が集まってくる。わたしが行った時も、色んな友達ができたわね」
「そうなのですか、……ふむ」
晴奈の胸中に、ワクワクとした気持ちが沸き起こる。それを見抜いた柊が、嬉しそうにニコニコと笑う。
「にぎやかで騒がしいところだったけれど、ついつい半年ほど、長居してしまったわね。
晴奈、あなたももし旅に出ることがあれば、絶対行ってみた方がいいわよ」
「はい!」
柊は、今度は央中の北西側に点と、山を描く。
「央中のもう一つの名家、ネール家の本拠地はここ、クラフトランドと言うところよ。
ここは周辺に鉄や銅の鉱山、木材に適した森林が豊富だから、自然、それらを加工・製品化する職人たちの組織――いわゆるギルドが数多く存在しているの。
だから、街中に鍛冶屋や工房があって……」
そう言って、柊は長い耳をつかみ、ふさぐしぐさを見せる。
「……とっても、うるさいの。ここは残念ながら、2日といられなかったわ」
「そ、そうですか……」
「でも、作られる製品はどれも一流品。わたしもここで、刀を打ってもらったんだけどね」
柊は傍らに置いていた刀を手に取り、晴奈に見せる。
「ね? すごく綺麗でしょ?」
「そう、ですね。しかし、央中でも刀が作られているとは」
「そこに、ちょっとした伝説があってね。
あの『黒い悪魔』、克大火がその昔、ネール家の開祖と共に、『神器』とまで称される、一振りの刀を作ったと言われているの。刀の名は『妖艶刀 雪月花』、見る者をとりこにする異様な美しさをたたえていると言う刀で、克と共に打ったネール大公はその時刀作りに目覚めたらしいの。
以来、ネール家では刀鍛冶を厚遇し、それで央中に刀作りが広まったと言われているわ。ちなみに今でも、克はその刀を持っているそうよ」
「ふむ……」
克の伝説を聞き、晴奈は橘から伝え聞いた話を思い出し、少し身震いした。だが、伝説の奸雄をも満足させると言う、優れた逸品を創り上げた名家にも、強い興味が沸いてくる。
「『狼』には正直、あまり良い印象を持っていなかったのですが、少し、感銘を受けました」
「クス、ウィルバー君のせいね。……でも『狼』は、友達になれれば快い種族なのよ」
そう言って柊は、クラフトランドの話を続ける。
「もう一つ伝説と言えば、ネール家には克が密かに教えた秘術が伝わっているそうなの。それが何なのかは、わたしも詳しくは知らないけれど、ネール家は鍛冶屋の頭領だし、きっとそれに関係する術なんでしょうね」
「なるほど……」
「狐と狼の世界」について一通り聞き終え、晴奈は央中に思いを馳せていた。
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