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1.
柊雪乃と言う女性は、とてもよくできた人だ。……と、晴奈はいつも思っている。
エルフに良く見られる儚げで華奢な容姿と、気さくで面倒見が良く、温かい雰囲気を併せ持っている。
そして何より、一流の女剣士であり、その強さは彼女の、二つと無い魅力である。
晴奈にとって師匠、柊は何よりも、どんな人物よりも手本にしたい――まさに、「こんな人になりたい」と思わせる人物であった。
だから。
「……」
「……」
師匠のこんな、大儀そうな顔を見るのは、晴奈としても非常に心苦しかった。
「はぁ……」
ため息はもう、何十回ついたか分からない。師弟合わせれば、百に届くかと言う数にはなっている。
「遅い、ですね」
「そうね」
素っ気無い返事に、晴奈はそれ以上、言葉を続けられない。手持ち無沙汰になり、しょうがなく自分の尻尾をいじりつつ、相手が来るのを待つ。
「……クスッ」
すると、柊が小さく、笑った。
「晴奈、あなた良く、尻尾をいじっているわね」
「え? あ、はい。そう、ですね」
半ば無意識の行動だったので、晴奈は少し気恥ずかしくなり、尻尾から手を離す。
「尻尾の細長い獣人って、『猫』か『虎』くらいだけど、みんな良く、そうやって手入れしているみたいね。『狼』とか『狐』になると、櫛まで使って綺麗に梳かしていたりするし」
「まあ、自分の体の、一部ですから」
「……ちょっと、触っていい?」
柊は不意に、晴奈の尻尾を指差す。晴奈も柊に尻尾を向け、触らせた。
「はい、構いませんが……?」
「……へー。ふさふさ」
柊は尻尾をもそもそと撫で、楽しげな声を漏らす。触っても良いと言ったとはいえ、撫でられるのは少し、くすぐったくて恥ずかしい。
「あ、あのー」
「ん? ああ、ゴメン。晴奈が触ってるの見ていたら、わたしも触ってみたくなっちゃって」
謝りつつも、尻尾から手は離さない。
「はー……。まだ来ないのかなぁ」
「師匠、一つ聞いてもよろしいですか?」
「ん?」
ここでようやく、柊は尻尾から手を離した。
「相手の熊獣人と言うのは、どのような男なのですか?」
「んー。まあ、その、ねぇ」
柊は、今度は自分の髪をいじりながら、ゆっくりと説明した。
「一言で言うと、面倒な相手、になるかな。
まず、自分が偉いと思ってるもんだから、勝ったら威張り散らす。負けたら言い訳する。その上、人の話や都合を聞かない。相手が自分に合わせて当然、と考えている尊大な男よ」
「むう」
話に聞くだけでも、面倒な相手と言うのが良く分かる。
「さらに嫌なのが、話が通じないと言うこと」
「通じない? 異国の者だからですか?」
「いえ、そうじゃなくて――いえ、少しはあるかもしれないけれど――他人の話を、理解しようとしないのよ。何を言っても、『自分には関係ない話』と決め付けて流す。そうして彼の口から出てくるのは――自分がいかに偉いか、と言う自慢話だけ」
「それは……また……」
顔をしかめた晴奈を見て、柊は困ったように笑った。
「だから、会いたくないんだけど……」
「来たよう、ですね」
ドスドスと重い足音が、戸の向こう側から聞こえてきた。
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