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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・指導録 5

晴奈の話、37話目。
不毛な情熱。

晴奈のドット絵に続き、師匠・柊雪乃のドット絵も作ってみました。



5.

「何でしょう、晴奈姉さん」

「一つ聞いてもいいか?」

「……はい?」

 座り直した良太をじっくりと見て、尋ねる。

「お主の経緯を聞いたが、嘘をついているだろう」

「えっ」

「両親が殺された時、お主はその場にいなかった、と言ったな?」

「え、ええ、はい」

「本当は、いたんじゃないか?」

「……!?」

 良太の目が見開かれる。晴奈は続いて尋ねる。

「あの、家元を待ち構える際の、怯えにも似た、鬼気迫る気配。何の危難にも出会わず、安穏と生きてきた者が出せるものでは無い。

 よほど、己の身が危機にさらされなければ、得られぬ類のものだ」

「……」

 良太の額に汗が浮かぶ。二人の様子を見ていた重蔵が、はーっとため息を漏らした。

「流石じゃな、晴さん。その通りじゃよ」

「おじい様!」

 良太が止めようとしたが、重蔵は片手を挙げ、それをさえぎる。

「心配するな、良太。雪さんも晴さんも、口は堅い。周りに吹聴して、お前の秘密を暴くようなことはせんよ」

「……」

 重蔵は座り直し、ゆっくりと語り始めた。

「まあ、その。始めはわしと、わしの娘のいさかいが原因じゃった。

 わしも娘も、あの頃はひどく頑固じゃった。娘には剣術やら作法やら色々と教えたが、それをすべて、『私はもっと別な人生を歩みたいの』と言って、捨て去った。そして口喧嘩の末に、娘は塞を離れた。

 それからしばらくして、娘から手紙が届いた。『ある街でいい人と出会い、結婚した。男の子が生まれたのだが、名前を考えてくれないか』。正直、わしは少し複雑な気分じゃった。娘が勝手に、どこの馬の骨とも知れぬ輩と、と怒った反面、反目していたわしを頼ってくれたその気持ちを嬉しくも思った。……結局、わしは和解した。『良太』と一筆したため、娘に送り返したのじゃ。

 その後、何度か手紙でやり取りし、そしてつい最近、『戻ってみてもいいか』と返事が来た。わしは喜んでそれを了解した。で、どうせなら迎えに行ってやろうとそう考えて、娘夫婦のいる天玄に向かった。じゃが……」

 重蔵はそこで言葉を切る。その顔はいつもよりしわが深くなり、ひどく悲しそうにくぼんだ目が光っていた。

「襲われておった。

 家は扉も、窓も破られ、娘も、夫と思われる男も、むごたらしく殺されておったのじゃ。そしてわしは、今まさに良太に襲いかかろうとしていた男を見つけた。考える間も無く、わしはそいつを斬った。腕は落としたものの、そいつは逃げてしまった。

 後に聞けば、そいつは人さらいだったそうじゃ。央南や、央中で暗躍する人身売買の組織があり、良太はそやつらに狙われたのじゃと。わしは良太を連れ、急いで天玄を離れ、ここに戻ってきた」

「……」

 すすり泣く声が、良太から聞こえてくる。晴奈が振り向くと、良太がボタボタと涙を流しているのが見えた。

「……鍛えてやってくれてありがとう、晴さん。この調子なら、良太はいつかきっと、大願を成就できるじゃろうな」

「大願?」

 良太はグスグスと、鼻をすすりながら答えた。

「仇を、取りたいん、です。僕の両親を、殺した、その男を、討ちたい」

「……そうか」

 晴奈はなぜか、良太がそんな言葉を吐いたことにひどく、胸が痛んだ。

(優しいこいつが、そんな悲壮な決意を抱く、……のか。私はもしかしたら、こいつが歩むべきだった人生を、曲げてしまったのでは無いだろうか。

 本当にこいつを、鍛えて良かったものか)

 

 

 

 晴奈の心境とは裏腹に、晴奈の評判は大きく上がった。「あの『坊ちゃん』を見事に鍛えるとは、なかなかに優れた師範では無いか」と評され、晴奈に指導を請う者、晴奈を慕う者が多くなった。

 勿論、良太もその一人である。

「晴奈姉さん、また今日もお願いしますねっ」

 子犬のように晴奈を慕う良太を見て、晴奈は心の奥にわだかまりを覚えずにはいられない。

(……しかし)

「ああ。今日も厳しく行くからな。頑張れよ」

「はいっ!」

(こいつがそれを望み、全うしようと言うのならば、応えてやらなければなるまい。

 姉弟子として、また、教官としても)

 晴奈は深呼吸し、雑然とした思いを頭から払いのける。良太と、前にいる門下生たちに向かって、大声を上げて指導を始めた。

「では、今日も行くぞ! まずは柔軟からだ! はじめッ!」

 

蒼天剣・指導録 終

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