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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・烈士録 1

晴奈の話、29話目。
そして、3年の月日が流れた(

こんなん作ってみたり。

晴奈(13~16歳)。

けものみみは普通の人間と同じところ派。


1.

 人が変わるには、きっかけが要ると言う。

 そして後の伝説に残るような人物は、そのきっかけ――契機が、他の者よりもずっと、恵まれていたのだろう。

 

 ウィルバーとの戦いに敗れ、明奈を教団に奪われた晴奈は、その点、大きな経験を積んだと言える。彼女の中で膨れ始めていた慢心、そして忘れかけていた妹への感謝を、その出来事は諌め、思い出させてくれた。

 そして師匠、柊の人となりに深く触れ、ともに旅をしたことで、彼女の優れた部分を吸収することができた。

 様々な経験が彼女を育て、熟成させ――さらなる高みへと、誘った。

 

 

 

 双月暦512年の秋、彼女は柊からいきなり、こう言われた。

「参ったわねぇ」「え?」

 これまで6年やってきたように、その日もいつも通りに、朝稽古を始めようとした。ところが木刀を構えた瞬間、柊がため息をついたのだ。

「どうされたのですか、師匠?」

「……ま、打ち合えば、分かるわ」

 そう言って柊は一歩、踏み込んできた。その瞬間晴奈の頭に、たぎるような感覚――黒炎が攻めてきた時や、島と戦った時に感じたのと同じ、息が止まるような緊張感が生じる。

(殺気!?)

 「稽古でも、真剣にやる」と約束してはいたが、それは技術の面と心持ちで、だけ。まさか本気で、殺すつもりでやるわけにもいかない。

 だがこの時、柊は本気でかかって来た。本気で、晴奈を殺すつもりで、踏み込んできたのだ。鋭敏な感覚を持ち、かつ、修羅場を潜った晴奈には、その一動作だけで、柊の感情が察せられた。柊が斬りかかると同時に、晴奈は木刀を使って、それを防御する。

「くッ!」

 ボキ、と言う鈍い音と共に、晴奈の持っていた木刀が、真っ二つに折れる。良く見れば、柊はいつの間にか真剣を構え、さらにその刃は赤く輝いている。紛れも無く、「燃える刀」を使っているのだ。

「し、師匠!? 一体、何故に!?」

「問答無用ッ! 刀を抜け、晴奈ッ!」

 師匠から向けられる、正真正銘の殺意に、晴奈は若干戸惑い、怯む。だが、その困惑を無理矢理押さえ込み、腰に差していた刀を抜く。

(一体、何をしているのですか、師匠!?)

 問うことも考えたが、恐らく答えてはくれないだろう。晴奈は頭から、余計な思考を追い出した。

(今考えるのは目の前の、……『敵』を、倒すことだ!)

 

 刀を構え、刃に炎を灯す。まだ日も差さぬ、朝もやの立ち込める修行場に、二つの火がゆらめいていた。二人はしばらくにらみ合ったまま、静止する。

 先に、柊が仕掛けた。

「ぃやああああッ!」

 燃え盛る刀を振り上げ、飛び上がる。晴奈は瞬時に、柊の太刀筋を袈裟斬りと判断し、刀を脇に構える。

「させるかッ!」

 晴奈は地面を滑るように、低く跳ぶ。一歩分体が前に進み、柊の間合いから外れる。柊の刀は晴奈の体を裂くこと無く、切れ味の悪い鍔本が肩に食い込むに留まった。

「くあ……、あお、おあぁぁッ!」

 痛みからの叫びを気合の声に変え、晴奈は刀の柄を、柊の鳩尾にめり込ませる。

「く、は……」

 柊の口からか細い呻きが漏れ、がくりと頭を垂れて、その場に崩れ落ちた。

 それを見た途端、晴奈の緊張が解ける。呼吸を整え、次第に冷静さを取り戻し、そこでようやく、自分が師匠を倒したと自覚した。

「……師匠!」

 我に返った晴奈は、慌てて柊の側に駆け寄る。柊はぐったりとし、動かない。その青ざめた顔を見て、晴奈の顔からも血の気が引く。

(ま、まさか。柄で突いたとは言え、打ち所が悪かったか……!?)

「師匠! 大丈夫ですか、師匠!」

 晴奈は柊を抱きかかえ、必死で名前を呼ぶ。

「……くぅ、痛たた」

 少し間を置き、柊は息を吹き返した。気を失い、真っ青な顔をしている割にはしゃんとした動作で、柊は晴奈の手をつかむ。

「強くなったわね、晴奈。19でもう、その域に達するなんて」

「え?」

 生きていたと安堵する間もなく、晴奈は戸惑う。

「もう、わたしから教えることは何も無い。修行はおしまいよ」 

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