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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・討仇録 3

晴奈の話、26話目。
思い出話と、恨み話。



なぜか女剣士はポニーテール、と言うイメージがあります。
原点はどこなんでしょうね……?

自分が剣道をしていた時のことを思い返してみると、
長い髪の子は、少なかった気がします。
それでも一人、二人居ました。確かに束ねてましたね、そう言えば。
利に適っていると言うか、自然にそうなるものなのかも。


3.

「はあ……」

 椅子に座り、頬杖を付いて柊がため息を漏らす。宿に戻ってからずっと、この調子だ。

「楢崎殿、一体、どうなってしまわれたのか」

「もしかしたら……」

 柊は少し、青ざめた顔でつぶやく。

「負けたことを恥じ、自害した……、なんてこと、無いわよ、ね」

「し、師匠」

「無い、ってば。楢崎はそんな、やわな男じゃないわ」

 柊は微笑むが、その笑顔には力が無く、余計に晴奈の不安をかき立てる。それを察したのか、柊は楢崎について、話をし始めた。

「……楢崎は、どちらかと言うと失敗をバネにして、成長する男。わたしが入門した時から、そう言う男だった。

 普段から気性が穏やかで、勝負事はあまり、得手では無かった。いつも真正面からぶつかる、正々堂々とした戦い方を好んでいたわ。でもその分、どこまでも正直で、清々しくて――紅蓮塞にいた時は、兄のように慕っていた。

 それ、にね――」

 柊は――他に誰がいるわけでも無いのに、わざわざ――晴奈の耳に口を近付けて、そっと囁いた。

「わたしの、初恋の人、……だった」

「そう、でしたか。……今、は?」

「彼は結婚してしまったし、塞を離れてからは急に、そんな気持ちはしぼんでしまった。……今でも、兄のように思っているけどね」

 そう言って、柊は恥ずかしそうに笑った。晴奈も思わず、クスッと笑ってしまう。

「……無事だといいですね、楢崎殿」

「そうね」

 

 

 

 その夜、眠っていた晴奈たちの部屋の戸を、叩く者があった。

「夜分遅く、すみません。柊様、お話があります」

「……何かしら? なぜ、わたしのことを?」

 のそのそと起き上がり、眠たそうに尋ねる柊に対し、声の主はやや、急ぎ気味に返した。

「我が師、楢崎瞬二のことでお話が……」

 それを聞いた瞬間、柊の長耳は跳ね上がった。

「……入りなさい。ぜひ、聞きたいわ」

 入ってきたのは昼間、晴奈たちに声をかけたあの門下生だった。晴奈も起き上がり、眠い目をこすりながら話の輪に入る。

「楢崎殿は、どうなったのですか?」

「そのことを話す前にまず、自己紹介をさせていただきます。

 私の名は柏木、3ヶ月前まで楢崎先生の、一番弟子でした。ところがあの、島と言う男が先生と勝負し、負かしてしまったのです。以来私は、あの下劣な男の小間使いをさせられております」

「そこを、詳しく聞きたいわ。なぜ楢崎ともあろう男が、あんな者に遅れを取ったの?」

 柏木は顔を曇らせ、虎耳をブルブル震わせる。

「……先生は、負けるしかなかった。その前日、先生のご子息がかどわかされたからです」

「何ですって……!?」

「脅迫されていたのです――『息子の命が惜しければ、道場を明け渡せ』と」

 瞬間、柊師弟は激昂した。

「ふざけた真似を……ッ!」

「幼い子を危険にさらしてまで、己の利欲を取るなんて!」

「話には、続きがあります……」

 柏木はこらえきれず、涙を流し始めた。

「勝負に負けた後も、ご子息は戻ってこなかった。すでに、どこかへ売り飛ばされたと、言うのです。負かされた直後、島自身からその言葉を聞いた先生は、島に負わされたケガも忘れ、ご子息を探しに出て、そのまま行方が……」

 あまりに残酷な話を聞かされ、晴奈は怒りで、尻尾の毛を毛羽立たせる。

「奥方も心労で倒れられ、今は臥せっております。

 私自身が、仇を討とうとしたものの、実際、島は強く、私ではとても、太刀打ちできなかったのです。ですが、柊様なら――先生からお話は、かねがね伺っておりました――あの男を倒せるでしょう!

 お願いです、柊様! 何卒あの悪党、貧乏神、寄生虫――島を討ってください!」

「……」

 柊は口を開かない。その代わりに刀を手に取り、下ろしていた髪を巻き上げ始めた。それを見た晴奈も、同じように外へ出る支度を取る。

 支度が整ったところで、柊が静かに、しかし力強く、一言答えた。

「任せなさい」

 柊と晴奈の周りだけ、たぎるように熱い「気」が広がっていた。

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