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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・烈士録 2

晴奈の話、30話目。
目指せ百人斬りw

実際、空手や柔道で時折見られる百人組み手。
かなりの荒稽古だそうです。
常人では10人も相手できない。達人でも80人超えてくるとヘロヘロとか。
良い子は真似しないでねw
 
 
 

2.

 晴奈と柊の戦いから3時間後。

 二人は重蔵の前に並んで、座っていた。

「ふむ、そうか。晴さん、師匠に追いつきなすったか」

 重蔵は腕を組み、何かを考え込む。やがて、決心したように、ぱたりと膝を打った。

「ようやった、晴さん。良くぞ、6年と言う短い歳月で、そこまで己を磨きあげたものじゃ」

「は、はあ。ありがとうございます、家元」

「じゃが、まだ免許皆伝とは、いかんな。今はまだ、その手前じゃ。

 どうする、晴さん。免許皆伝の証を、狙ってみるかの?」

 この問いに、晴奈の心は当惑すると同時に、とても高揚した。

(め、免許皆伝!? まだ、私は19で、そう、6年だ。修行してまだ、6年しか経っていない。こんな若輩者がそんなものをもらって、いいのか?

 ……い、いや、しかし。家元が直々に、お声をかけてくださっているのだ。であれば、私にその資格があると、言っているも同然なのでは。

 ならば――狙って、みるか?)

 晴奈は目を閉じ、心を落ち着かせる。

「どうかな?」

 重蔵がもう一度聞いてくる。晴奈は少し間を置いた後、「はい」と答えた。

 

 晴奈はふたたび、あの「鬼が出る」堂――伏鬼心克堂を訪れた。免許皆伝の試験は、この堂で行われるのだ。

 だが、前回と比べて違う点がある。まず刀を大小二振りと、武具を身に付けた状態で入らされたことだ。

(まるで、誰かと戦えと言っているような?)

「さあ、晴さん。そこに座って、わしの話を、よーく聞きなさい」

「あ、はい」

 言われた通りに、晴奈は正座する。そしてもう一つの違い、試験時間について聞かされる。

「これから一昼夜、丸一日。ここにいてもらう。その間、眠らずにいられれば、試験は修了。晴れて、免許皆伝じゃ。

 じゃが、勝手は入門の時とは、ちと違う。この堂の仕組みには、気付いておるじゃろ?」

「はい。己の心が、鬼を作るのですね」

「そう。確かに入門時の仕掛けは、そうじゃった。

 じゃが、今度の仕掛けはそれとは、ちと違う。出てくるのは、鬼では無いのじゃ」

「鬼では無い? では、一体何が?」

 重蔵は首を横に、ゆっくりと振る。

「それは、晴さん自身で確認し、その理由を考えてみなさい。それがこの試験の答えであり、真意じゃ」

 そう言って重蔵は、堂から出て行った。

 

 

 

 試験が始まってから1時間が過ぎた。

 完全武装した状態での座禅は、さすがに武具がうっとうしすぎて、気が散ってしまう。とりあえず最初のうちはじっと座ってはいたが、やがてそれにも飽きた。自然と立ち上がり、重蔵が言っていた、この試験に出てくると言う「何か」を待ち構えていた。

(鬼ではない、か。この装備から、もしかすれば鬼と戦えと、言っているのかと思ったが、そうでは無さそうだ。

 では、一体何と、戦うのだ?)

 他にやることが無いので何気なく、晴奈は手入れをしようと、刀を鞘から抜いた。

(……!)

 その刃に何か、黒い影が映っている。晴奈の背後に、誰かがいるのだ。

「何奴!」

 振り返ると、そこには――。

「……!? ウィルバー! 何故、ここにいるのだ!」

「……」

 かつて晴奈に手痛い敗北を負わせた、あのウィルバーがいた。ウィルバーは一言も発さず、いきなり襲い掛かってくる。

「く、この……!」

 4年前と同じく、三節棍は変幻自在の動きを見せ、晴奈を翻弄する。一端をうかつに刀で受けると、もう一端が跳んでくるため、距離を取りつつ、棍を受けずに、弾いて防御する。だが、跳んでくる棍は重く、何度も受けるうちに、晴奈の手がしびれてきた。

「くそ、重たい……ッ」

 接近戦は不利と判断し、晴奈は後ろに飛びのく。すかさず一歩、踏み込んでくるウィルバーを見て、晴奈は瞬時にある戦術を閃く。

「それッ!」

 踏み込んできたウィルバーに、突きを浴びせる。当然、ウィルバーは防御するため、棍でそれを絡め取る。

(棍を使ってくるならば、至極面倒な相手になる。だが、それを封じれば……!)

 防御に棍を使うならば当然、その瞬間だけは、棍での攻撃はできない。晴奈は素早く、絡め取られた刀から手を離し、脇差を抜いて、ウィルバーの眉間を斬りつけた。

「……!」

 ウィルバーの額から血が噴き出し、そのままバタリと、前のめりに倒れた。

「ハァ、ハァ……。何故、こいつがここに?」

 刀を拾いながら、呼吸を整える。倒れたまま動かないウィルバーを見下ろしながら、とどめを刺そうと一歩踏み出した、その時――。

「……!?」

 風を切る音に気付き、とっさに身をよじる。頬を、石の槍がかすめた。

「橘殿!? いきなり、何をするのです!?」

 かつて己の力を証明するために戦った魔術師、橘が、杖を構えて立っていた。

「……」

 橘もまた、無言で襲い掛かってきた。

 

 

 

「ゼェ、ゼェ」

 堂にこもってから、8時間が経とうとしていた。

「わけが、分からぬ」

 最初にウィルバーが襲い掛かってから、すでに20人近い手練を打ちのめしている。辺りには彼らが、一言も発さず、また、目を覚ますことも無く倒れ伏している。

 襲ってくるのはウィルバーを初めとする、黒炎の者たち。橘や柏木など、修行を共にした者たち。彼らがどう言うわけか、引っ切り無しに襲ってくるのだ。

「一体、何故に?」

 19歳にして剣術を極めた晴奈とて、8時間も兵(つわもの)たちを相手にし続けては、さすがに疲れも色濃く表れてくる。肩で息をし、後ろでまとめた髪はとうにほつれ、乱れている。敵から受けたダメージも少なくない。それを体現するかのように、パキ、と音を立てて鉢金が割れた。

「後、一体、何人、倒せば、いいのだ!?」

 晴奈以外動く者がいない堂内で、晴奈は鉢金を投げ捨て、叫ぶ。

 と、またしても、背後から敵が現れた。

 

 一人倒すのに、およそ30分。十人倒すのに、5時間。

 もしもこのまま、同様に敵が現れ続けるのならば――後、40名以上を相手にしなければならない。
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