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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・夢幻録 3

晴奈の話、66話目。
草葉の陰から。
 
 
 
3.

「どうしたの、小鈴さん?」

 棗が橘に声をかけるが、橘はそれに応えず、今見かけた者の方へと走っていく。

「どうされたのかしら?」

「ちょっと、気になるな。追いかけよう、栄一くん。棗、桃を頼む」

 謙は桃を背中から下ろし、柏木を伴って橘を追いかける。

「おーい、小鈴さん、どこまで行くんだ?」

「今、あの角に、雪乃が……」

 橘の言葉に、謙も柏木も目を丸くする。

「何ですって?」

「そりゃ無いだろう。雪乃は今、式の準備中だろうし」

「でも、確かにいたのよ!」

 そう言って、橘はひょいと角を曲がり――。

「わ、わっ!?」《きゃっ!?》

 曲がった途端、何かとぶつかった。

「どうした、小鈴さん?」

「大丈夫ですか!?」

 謙たちが角を曲がってくる。尻餅をついた橘は立ち上がり、何にぶつかったのか確認する。そこには手を付いてうつぶせになった、深緑の着物を着た女性がいた。

「ご、ごめんなさい」

《い、いえ。お怪我は、無いかしら?》

 ヨタヨタと立ち上がるその女性の声を聞いて、橘たちは違和感を覚えた。

(あれ? 何か今の声、変じゃない?)

(何と言うか、薄紙一枚隔てたような)

(妙にくぐもった声だな?)

 女性はパタパタと着物の裾をはたいて、橘たちに振り向いた。

「……!」

「雪乃?」

《え?》

 そのエルフの女性は、雪乃そっくりの顔をしていた。

 

 橘たち五人は突き飛ばしたおわびも兼ねて、細道の途中にあった喫茶店で女性にお茶をおごりつつ、話をすることにした。

「それじゃ雪花さんって、雪乃の……?」

《はい。あまり大きな声では言えないのですが、あの子の母です》

 雪花と名乗ったその女性は、うつむきがちに話す。

《あの子が幼い頃から、わけあってこの塞で預かっていただいて》

「それで、今度雪乃が結婚するから、一目会いたい、と」

《そうです。……今さら、会える道理は無いのですが》

 雪花は悲しげな顔で、お茶をすする。謙が頭をかきながら、なだめている。

「まあ、そう言いなさんな、雪花さん。やっぱり嬉しいぜ、自分の親が来てくれたら」

《そうでしょうか……?》

 謙は横にいる棗の肩を抱き、自信たっぷりにうなずく。

「ああ、間違いない。俺と棗の結婚の時も、そうだったもんな」

「ええ、そうですね」

 棗も微笑んで同意する。

「この人、親の前で『ありがとう、ありがとう』と言いながら号泣……」「いいから。それはいいから」

 謙は棗の肩から手をほどき、両手を合わせてやめさせた。その様子を見ていた雪花が、口元に手を当てて苦笑する。

《ふふ、仲がいいんですね》

「あら」

 その仕草を見た橘は、感心した声をあげる。

「雪花さん、やっぱり似てる」

《そう、ですか?》

「今の笑い方、雪乃も良くやってたわ。やっぱり、親子なのね」

《そう……。それを聞くと、本当に会いたくなりますね》

 また、うつむきがちにお茶をすする。ずっと見ていた柏木が、ためらいつつも尋ねてみる。

「あの、雪花さん。お会いになれば、いいのでは」

《……そうしたいのは、山々ですが》

 雪花はなお、ためらう。

《先ほども申し上げたとおり、今さら会うことなど、私には到底できないのです。ですからこうして、草葉の陰で見守っていることしか》

「草葉の陰、って……、まるで死んでるみたいなこと、言わないでくださいよ。こんなおめでたい日に、不謹慎ですよ」

 柏木はたちの悪い冗談と思ったらしく、雪花の返答に苦い顔をしている。

 だが、橘、謙、棗の三人は気付いていた。この女性が、まともな人間でないこと――幽霊であることを。ただ、この時点までは三人とも、確信は無かった。しかし柏木の言葉に見せた雪花の反応で、確信するに至った。

《あっ、えっと、その……、いえ、そうですね。変なこと、言ってしまいましたね》

(間違いない。……この人、死んでる)

 橘は内心、やっぱりと思った。向かいに座る樫原夫妻の顔を見て、二人も自分と同じことに気付いているのが分かる。

(やっぱり、……よね?)

 隣にいる雪花に気づかれないよう、謙に目配せする。

(ああ。多分、間違いない)

 謙はわずかにうなずき、橘に同意する。が、棗を含め三人とも、警戒してはいない。

(悪霊とかじゃ無さそうだし、このまま……)

(ああ。話だけ聞こう)

 橘たちは花嫁の母親の幽霊を交えた、奇妙な茶会を続けることにした。

 

 

 

「柊先生、間もなく式が始まります」

 式の手伝いをしている門下生が、雪乃を呼びに来た。支度の整った雪乃は晴奈を伴って、部屋を出て門下生の後に続いた。

「いよいよ……、ね」

「緊張、してらっしゃいますか?」

 そう尋ねてくる晴奈を見て、雪乃は口に手を当ててクスクス笑う。

「晴奈、あなたの方が緊張してるんじゃない? 目、すわってる」

「……どうも、慣れなくて」

「わたしもよ。……ねえ、晴奈」

 雪乃はすっと、手を差し出す。

「手を、握っててほしいの」

「え?」

「ゴメンね、やっぱり緊張してる。いいかしら?」

 確かに、雪乃の手は小刻みに揺れている。晴奈は優しく、握りしめた。

「……ありがと」

「……師匠。こんな時に、何ですが」

 晴奈はこの8年間、ずっと思っていたことを初めて、口にした。

「私は師匠のことを、……その、姉のように慕っていました。その、不敬だとは思っていたのですが」

「そんなこと、無いわよ。わたしも妹みたいに思ってたもの」

「そうですか」

 雪乃はまた、クスクス笑った。

「姉さんと、呼んでもいいわよ」

 晴奈は顔を赤くし、首を振る。

「い、いえ。……姉と思っても、やはり私には師匠です」

「そう。……良太はあなたを姉と慕い、あなたはわたしを姉と慕っていた。そしてわたしが、良太と結婚。……何がなにやら」

「はは……」

 他愛の無い話をするうちに、雪乃の緊張は若干ほぐれたらしく、晴奈を握っていた手が緩んできた。

「そろそろ、神前式の場に着くわ。ここからはわたしだけで行くから、式場で待っていてね、晴奈」

「はい」

 

 一方、良太は。

「すみません、本当に」

「い、いえ」

「どうかこのまま、式が始まるまで眠らせて置いてください。よろしくお願いします」

「え、ええ」

 門下生に平謝りし、新郎控え室で酔いつぶれた重蔵の世話をお願いしていた。


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