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4.
某所、天原の隠れ家。
「災難でしたね、アマハラ君」
「ええ、本当に。まったく焔流には、ほとほと手を焼かされますよ」
事情を聞きつけたワルラス卿が、天原の元を訪ねていた。
「まあまあ、アマハラ君。それを言っては、シノハラ君たちに悪い」
「おっと、そうでした。では言い換えて……、『旧』焔流には、ほとほと手を焼かされる、と」
「はは……」
天原はぱた、と手を叩き、茶を持って来させる。
「黒茶を」
「ただいまお持ちいたします」
手を叩いてすぐに、黒頭巾をした女性――頭巾の端から猫耳が見えている――が、茶器と椀を持って現れた。
「おお、早かった。いつもながら準備がよろしいですね、竹田くんも、皆さんも」
「殿のご用命に、いつでも応えられるようにと」
「ほう……」
猫獣人、竹田の言葉に、ワルラスは感心した声をあげる。
「いい部下をお持ちですね、アマハラ君は。部下と言う者はすべからく、こう言う出来る人間を持ちたいものです。私の甥などは本当に、愚物でして」
「ああ、ウィルバーくんですか。おうわさは、かねがね……。現在は央南西部の侵攻……、おっと、教化に当たっているとか」
「ええ、そうです。しかし、まあ……、アマハラ君も知っているでしょうが、あの二人の奸計にいつも絡め取られて、毎度毎度敗走、失敗すると言う体たらくでして」
憎々しげに首を振るワルラスを見て、天原は小さくうなずく。
「ああ、黄とグラッドですか。確かにあの二人は曲者ですねぇ。……そうだ、こんなのはどうでしょうか?」
「うん?」
「私も聖下も、いくつか共通の悩みと、目標を持っています。黄とグラッドに手を焼き、央南西部、及び中部の教化にてこずっている。
しかしですね、悩みと言うのは似通ったものが二つ合わされば、逆に転機となるのですよ」
「ふむ……?」
天原は手をさすりつつ、ワルラスに献策する。
「あの二人を狙えば、その目標は達せられます。幸いにも我々には、多くの手駒がある。そしてもう一つ、『足』もあります。これに聖下の頭脳を加えれば、どんな街も紙細工も同然。あっという間に攻め落とし、黒く染められましょう」
「なるほど、なるほど。私もそれには同感です。それにもう一つ、あのグラッドと言う男の思考にはある、弱点を見つけています。そこを突いた策で攻めれば、我々の目標も達せられるでしょう」
黒い「狼」と白い「狐」は、同時にニタニタと笑った。
一方その頃、篠原は座禅を組みながら、昔を思い返していた。
(あの『猫』は確かに俺より格下だった。だが、あの気迫は一流。……思い出す、昔俺が紅蓮塞にいた時のことを。
すでに家元は壮年も過ぎ、老境に達しようかと言う歳だった。体も痩せ、どう見ても苦戦する相手では無かった。瞬二も英心も確かに手強かったが、奴らは一太刀、二太刀であっさり沈んだ。俺は三人ともまるきり、敵とは見なしてはいなかった。
だが……! 家元、焔重蔵だけは違っていた。俺の刀を4太刀浴びてなお、倒れるどころか向かってきた。確かに瞬二や英心よりは軽い怪我であっただろう。だが、それを差し引いても、あの二人とはまるで、質が違う。
凡庸な奴らであれば、一太刀入れられれば怯み、退く。それが英心たちの敗因だった。逃げれば逃げるほど、面白いようにこちらの太刀は奴らの体に食い込み、半端に立ち向かうよりも深手を負う。
だが家元は違った。どれだけ太刀を入れられようと、退かぬ。決死の覚悟を持って、踏み込んでくる。死をも省みず、攻め入ってくるあの気迫――負けたのは、奴よりはるかに強健な肉体と技量を持っていたはずの、俺だった。
俺は『強い奴』など恐れん。本当に恐ろしきは『退かぬ奴』だ。退かぬ奴に俺の『魔剣』は通じない。それどころか俺の予想を上回る立ち回りで圧倒し、俺を恐れさせ……っ)
重蔵の鬼気迫る顔を思い出し、篠原の胃は凍ったように絞めつけられる。
「う、ぐ……」
篠原は腹を押さえ、その痛みをこらえる。手を当てているうちに痛みは和らぎ、篠原は額に浮いた汗を拭った。
(あれからもう、何年も経ったと言うのに)
篠原は上を脱ぎ、自分の裸を見る。
(この傷はなお、俺を捕らえ、痛め続けている)
篠原の胸から腹全体にかけて、ひどい火傷と刀傷の痕が残っている。篠原は立ち上がり、己の中で膨れ上がる激情をこらえきれず、叫んだ。
「この傷が癒えぬ限り、俺は本家を敵と見なす!
見ていろ、重蔵……! お前の門下にいる者はみな、血祭りに上げてくれるぞ!」
蒼天剣・魔剣録 終
12 | 2025/01 | 02 |
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