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4.
その後しばらく、柊と晴奈は旅の話で盛り上がっていた。
「……でね、その時に会った『狐』と『狼』が、本当に仲が悪くて」
「ふふ……」
央中で出会った商人たちのケンカの話に移り、柊が面白そうに話していたところで――。
「……あ」
突然、柊が話を止めた。なぜか、神妙な顔をしている。
「どうされたのですか?」
「いや、ね……。ちょっと、嫌な奴のことを思い出しちゃって。こんな風に、そのケンカしてた2人と談笑してた時にいきなり割り込んできて、『柊、勝負だ!』って怒鳴り散らす奴がいたのよ」
柊の顔が、わずかに曇る。本当に、その人物のことを嫌っているらしい。
「なーんか、嫌な予感が……」
柊はす、と立ち上がり、刀を持って部屋を出る。
「師匠?」
「ゴールドコーストにね、闘技場があるのよ。で、裏で誰が勝つか賭けをしてて、そいつがいつも本命――つまり、強いの。
で、昔にちょっとした事情から、そいつと戦わなきゃいけなくなったんだけど、ね」
廊下を進み、修行場へと足を向ける。
「わたし勝ったのよ、そいつに。それ以来――何年かに一度、ここを訪ねてきて……」
「『勝負だ!』……、と言うわけですか」
「そう言うことよ。よく考えたら、そろそろ来るかも知れない時期だったわ」
柊がため息混じりにつぶやいた瞬間――。
「あ、先生! 柊先生!」
若い剣士が、小走りに2人へ駆け寄ってきた。柊は剣士が手にしている手紙を見て、何かを感じ取ったような、そして非常に嫌そうな、複雑な表情を見せた。
「……赤毛の熊獣人から?」
「えっ」
剣士は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに気を取り直し、こわばった顔を向ける。
「は、はい。あの、果たし状を預かりまして……」
「そう」
柊の顔はとても、大儀そうに見える。事実、そうだったのだろう――受け取った果たし状を、中身も見ずに破り捨てた。
「峡月堂で待っている、と伝えて連れてきて」
「しょ、承知しました」
剣士の姿を見送ってから、柊はとても重たげなため息をついた。
「はーぁ。やっぱり来たかー……。うわさをすれば、ね」
「師匠?」
「……ま、一緒に来て、晴奈。あいつと二人きりだと、息が詰まりそうだから」
「はあ……」
晴奈はこの時、とても戸惑っていた。今まで師匠のこんな嫌そうな顔は、弟子入りを頼み込んだ時ですら見たことが無かったからだ。
後に晴奈も、柊がこれほど大儀がった理由を、嫌と言うほど良く分かった。その「熊」が本当に面倒くさい、剣呑な男だったからだ。
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