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3.
結局クラウンは30分ほど愚痴をこぼした後、逃げるように帰っていった。その晩、晴奈と柊は勝利を祝って、ささやかな酒宴を開いた。
「さ、師匠」
「ありがと」
晴奈が柊の杯に酒を注ぎ、柊はそれを飲み干す。
「ふう……。本当に、今日は疲れたわ。……ふふっ」
「師匠?」
突然笑った柊に、晴奈はけげんな顔をする。
「晴奈、あなた勝負の間中、ずっと顔がこわばっていたわね」
「み、見ていたのですか?」
晴奈はあの緊迫した勝負の中、師匠に自分を見る余裕があったのかと驚いた。
「そんなに不安だった?」
「いえ、そんなことは……。ただ、家元から『師匠は一撃必殺を狙っている』と聞かされたので、いつ、どのように繰り出すのかと、注視していた次第で」
「ふふ、そうだったの。さすが、家元ね。……晴奈、あなたもどう?」
柊は晴奈に杯を渡し、酒に手を伸ばす。
「え? あ、いや、私は、その……」
「あら? 飲んでみたくないの?」
そう言われると、美味しそうに酒を飲む師匠に、多少触発されてはいるので――飲んでみたくは、ある。
「……少しだけ、なら」
晴奈は少し恥ずかしそうに、杯を差し出した。
「うふふふ……」
どうやら柊は、大分酔っているらしかった。
晴奈も、大分酔ってしまった。
「ふわ、あ……」
思わず、大あくびが出てしまう。柊の方を見ると、すでに眠り込んでいる。
(いけない、いけない。風邪を、引いてしまう)
ふらりと立ち上がり、食膳や酒瓶を片付け、床の用意を始める。
「うにゃ……、せえな?」
柊も目を覚まし、晴奈に声をかけてきた。
「師匠、今床を整えておりますので、そちらでお休みください」
「んー、ありがと。……ごめん、おみずもってきてちょうらい」
「あ、はい」
近くの井戸から水を汲んできて、椀に注いで柊に手渡す。
「ありがと。……ふふ、わたし、おさけすきなんらけろ、よあいのよ」
「そのよう、ですね」
「せえな、あんまいよっれないろれ。うらやあしいなぁ」
呂律が回っていないので、何と言っているのか今ひとつ、理解はできなかったが、言わんとすることは何となく分かる。
「いえ、そんなことは……。さあ、床のご用意ができました。今日はもう、お休みください」
「ん、ありがと。せえなも、もうねる?」
「あ、はい」
晴奈がそう答えると、柊は晴奈の手を取り、引っ張った。
「いっしょにねよ?」
「……師匠?」
晴奈と柊は普段、別々の部屋で寝ている。だからこんな風に、二人揃って枕を並べることは無いのだが、師匠の誘いでもあるし、酔い方がひどかったので、放ってはおけず――その日は、同じ部屋で眠ることになった。
「ふー……、よこになると、ちょっとらくね」
まだ呂律は怪しいが、先ほどよりは平静を取り戻したようだ。
「んー……。そっか、はじめてよね。こうやってふたりでねるのって」
「そう、ですね」
「こんなによっぱらったのも、なんねんぶりかなー」
「少なくとも、私がこちらに着てからは、初めてお見かけします」
「そっかー」
しばらく、間が空く。眠ったのか、と晴奈が思った途端、また声がかけられる。
「ねえ、せいな」
「はい」
「こんどさ、ちょっとだけ、とおでしてみない?」
「遠出?」
「そ、ひとつきか、ふたつきか、それくらい。みじかく、たびしない?」
「ん……」
また、静かになった。今度は完璧に眠ったらしい――すうすうと言う寝息が聞こえてきた。
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