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2.
青江の街を海岸に沿って進み、郊外の住宅地に入ったところで、柊はその人物について説明した。
「彼の名前は楢崎。人間で、わたしの9つ上の36歳。今から7年前、焔流の免許皆伝を得ると同時に紅蓮塞を離れ、以来ここにずっと住んでいるの」
「ふむ……」
柊が道の向こうにある、大きな建物を指差す。
「あそこが道場。さ、行きましょ」
「はい」
だが、道場の前に立った途端、柊は首をかしげた。
「あ、れ……?」
「島、道場? ……ならさき、とは、……書いて、いませんね」
二人は顔を見合わせ、呆然とした。柊が先に口を開くが、動揺のためか、まとまった文章が出てこない。
「あ、その、え? ……間違ってない、わよね、住所は。……ここ、よね。……しま、って誰なの? ……え? 楢崎は、どこに行っちゃったの?」
「し、師匠。とりあえず、聞いてみては、どうでしょうか?」
「そ、そうね」
その、島道場に足を踏み入れた二人は、すぐに中にいた島氏の門下生と思しき虎獣人に、声をかけられた。
「おい、そこの女。うちに何の用だ」
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「何だ?」
「この道場って、確か楢崎――楢崎瞬二のもの、だったわよね?」
「……、し、らない」
門下生の動揺を読み取った柊は、もう一度尋ねてみる。
「知らないはずは、無いわ。ここは確かに、楢崎の道場だったはず。今、彼はどこにいるの?」
「知らない、と言ったら知らない!」
門下生はブルブルと首を振り、頑なに否定する。それ以上はラチが明かないと見切り、二人は道場を後にしようとしたが――。
「楢崎? ああ、わしが倒した、あの男のことか」
奥から、白髪に白いヒゲをたくわえた、壮年の人間が姿を現した。
「あなたが、島さん?」
「いかにも。島竜王とは、わしのことだ」
晴奈と柊は、直感的にこの男の性格を――以前に良く似た男がいたため――見抜いた。
(こいつ、ウィルバーみたいな奴だな)(うーん、クラウンみたいな奴ね)
「あの、島さん。楢崎を倒したとはつまり、道場破りを、なさったのですか?」
「いかにも。ほんの3ヶ月前だが、ここで傲慢にも道場を構えていたそやつを、わしがこらしめてやったのだ。
まったく、あの程度の力量で人を教えようとは、ふざけた男だ」
この言葉を聞いて晴奈は、一瞬だけ師匠の方に目をやった。
(……ああ、やっぱりだ)
晴奈の予想通り、柊から怒気が漏れていた。だが師匠はよほどのことが無い限り、その怒りを表に出すことは無い。だから表面上冷静に、柊は島に尋ねた。
「そうですか。今、楢崎はどちらに?」
島は大仰に首を振り、答える。
「知らん。今頃鳥のエサにでもなっているのかもな」
晴奈は再度、柊を見た。無表情だったが、その目は確実に、怒りでたぎっていた。
道場を後にした晴奈は、もう一度柊を見る。人の目が無くなったためか、柊は怒りをあらわにしていた。
「あの男に、楢崎が? 信じられないわ! 楢崎の強さはわたしが良く知っている! 間違ってもあんな、性根の腐った奴に敗れる男じゃない!
……晴奈、一緒に楢崎を探しましょう。事の真偽を、確かめないと」
「はい」
柊は市街地に移り、街の者に楢崎のことを訪ねてみた。ところが、楢崎の行方は誰も知らないと言う。その代わりに聞いたのは――。
「あの島と言う男、何でも楢崎さんと勝負する前に、何かを仕込んだとか」
「それに楢崎さんが引っかかって、その結果敗れてしまったそうだ」
「島は小ずるい男で、ああしてあちこちの道場を食い潰しているらしい」
うわさを聞いた晴奈は、怒りに震えた。
「何と言う下劣な奴だ……!」
「本当、剣士の風上にも置けない奴ね。……何としてでも、楢崎を見つけないと」
柊も怒っている。と同時に、楢崎の消息が分からず、不安になっているのが、晴奈には見て取れた。
その後も懸命に聞き込みを続けたが、結局、楢崎を見つけることはできなかった。
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