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4.
今宵は双新月――白い月も、赤い月も見えない、そんな夜だった。
月の光の無い、真っ暗な夜道を、二つの影が滑るように進む。その影は青江の海岸線に沿って進み、恐るべき速さでかつて友が住み、今は仇に奪われた屋敷に走っていく。
仇を討ち取るために。
道場のど真ん中で酒を呑み、悦に入っていた島はその「妖気」に気付いた。
まるで全身を炎に包まれた獣が、その炎をものともせず、大地を駆っていくような、その尋常ならざる気配。
「む……?」
腐っても、一端の剣士ではある。島はその異様な気配を察し、床の間に飾っていた刀に手をやった。
ほぼ同時に――道場の扉が×状に裂け、燃え上がった。一瞬で燃え尽きた扉の向こうに、エルフと「猫」の、二人の女剣士――柊と晴奈の姿があった。
「昼間の、武芸者どもか。一体、わしに何の用だ?」
柊は道場が震えるような、高く、大きな声で応えた。
「我が名は柊雪乃! 焔流、免許皆伝の身である! 今宵は我が友である楢崎瞬二の無念を晴らしに参った! 島竜王、その命――頂戴する!」
柊の刀に火が灯る。横にいた晴奈の刀にも、同じく火が灯り、今度は晴奈が叫ぶ。
「我が名は黄晴奈! 焔流剣士である! 我が師、柊雪乃に助太刀いたす!」
「は、は……。逆恨みもいいところだ。まっとうな勝負で、わしはこの道場を手に入れたのだ。無念だの仇だの、片腹痛いわ!」
「ほざくな、戯言を! 楢崎の家族に危害を加え、脅迫したこと! 知らぬと思うのか!」
「知らんわ! 証拠でもあると言うのか!?」
柊と晴奈は同時に、刀を振り上げる。
「問答無用! 我らは友の無念、晴らす一念をのみ持てり!」
そして同時に、刀を振り下ろした。
「焔流奥義、『火射』ッ!」
振り下ろした刀の延長線上を滑り、炎が走っていく。思っていたよりも早い、その炎の筋に、島は若干、慌てて飛びのく。
「お、っと! いきなり攻撃か! 油断を突くなど、それでも剣士か、お前ら!」
「敵を前にして油断など、それこそ剣士ではない! 覚悟しろ、島ッ!」
柊師弟は同時に道場へ飛び込み、島に斬りかかる。だが島も、両手に刀を持ち、二人の太刀を防ぐ。
「二刀流か……!」
「ふっふ、女の剣など打ち破るのはたやすい! 刀錆にしてくれるわ!」
そう言うと島は二人の刀を弾き、左にいた晴奈に向かって両手の刀を振り抜いた。
「む……ッ」
晴奈の刀を挟むように剣閃が走り、絡め取って弾く。
「ほら、胴ががら空きだッ!」
島の右手が伸び、晴奈の腹に向かって刀を突き入れる。だが俊敏な「猫」である晴奈は、瞬時に後ろへ飛びのき、突きをかわした。
「チッ! すばしっこい……!」
「でやあッ!」
島の意識が一瞬、晴奈に集中したその隙を狙い、柊が袈裟斬りを入れる。ところがこれも、島が背中に刀を回し、防いでしまう。
「無駄だ! 島式二刀流は攻防一体! 片手が防げば、片手が刺す!」
「あら、そう」「ならば」
もう一度、柊師弟は連携を見せる。島の前後から、同時に薙いだ。
「はははっ、それも万全よ!」
島は逆手に刀を持ち、二人の攻撃を弾く。
「どうだ、この鉄壁! この刀の壁! お前ら如きに破れる代物では無い!」
「そうかしら」「手ぬるい」
師弟は不敵に笑い――交互に打ち合い始めた。晴奈が島に斬り込む。島はそれを弾く。弾くと同時に柊が突く。島はもう片手でそれを打ち落とす。落とした瞬間、晴奈が刀を振り下ろす。
「む、お、この、ぐ……っ」
晴奈たちの旋風のような無限の連打を受け、島は一向に、攻勢に転じることができない。
「ま、ま、待て、待て、待てと、言うに」
次第に、島から弱気が漏れる。
「やめ、がっ、やめて、ぐっ、やめてくれ、ぎっ」
島の刀がガクガクと歪み、島自身も脂汗を流し始める。
「は、う、かん、べん、して、うぐ、してくれ、ひぃ」
だが、師弟の太刀筋は弱まるどころか、勢いを増していく。
「わ、わる、わるかった、あやま、ああ、あやまるか、ら、かんべ、かん、か、か……」
だが、二人に島を許す気など、毛頭無い。
「今さら、そんなことを言っても無駄だ」「冥府でじっくり、反省するがいいわ」
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