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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・烈士録 4

晴奈の話、32話目。
お説教。

晴奈は熱くなってくると見境が無くなるタイプです。
白熱すればするほどテンションも上がり、強さが増していきます。
日本刀のように鋭く、剛性のある戦い方が晴奈の身上ですね。

ただ、熱くなった金属と言うのは、非常にもろかったりするわけで。
時折冷まさないと、折れ曲がってしまいます。
「冷却」と言う要素が、彼女が成長する上での今後の課題ですね。


4.

 堂の戸が、すっと開かれる。重蔵がニコニコと笑いながら、入ってきた。

「おう、おう。起きておったな、晴さん」

 晴奈は一瞬重蔵に顔を向け、すぐに目の前で刀を構えていた「自分」の方に視線を戻した。だが、すでにそこには、誰もいなかった。辺りを見回しても、人の姿は重蔵だけ。倒してきた者たちも、どこにもいなかった。

「さて、聞こうかの。晴さん、この試験、何を問うものじゃろ?」

 すべてを察した顔で、重蔵は晴奈に問いかける。晴奈はこの24時間で至った考えを、率直に話す。

「……戦いの、意義。無闇に戦うことが、正しいことかどうか。無益な戦いは、無駄であると言うことだと」

「ほぼ、正解じゃ。じゃが後一つ、逆のことも考えなければならぬ」

「逆の、こと?」

 晴奈は刀を納めつつ、聞き返す。

「意味も無く戦えば、どうなる?」

「意味も、無く……。恐らく、無為。何も、なさぬかと」

「さよう。じゃが、確実に失ったものがある。時間や話す機会、物、その他諸々、そして何より、人命。人は失った分、何かを手に入れようとする生き物じゃ。戦いで失ったものを取り戻そうとし、それは時として、次の戦いを生む。

 そしてまた失い、手に入れようとし――行き着く先は、修羅の世界じゃ。こうなるともう、無限の損失しか残らん。永遠に失い続ける人生を歩み、何も生み出すことは、無い。それは己自身をも滅ぼす、まさしく地獄じゃ。

 無益な戦いこそ、剣士の名折れと心得よ。それが、この試験の本意じゃ」

「なるほど……」

 重蔵の答えを聞いて、晴奈はしばらく顔を伏せ、考える。

「……もう一つ、思ったことがあるのです」

「うん?」

「私は、私と向かい合った時、ひどく怯えていました」

 それを聞いた重蔵が、「ほう」と声をあげた。

「自分まで、呼びなすったか」

「ええ。そして対峙した時、ずっと私は、私から殺意をぶつけられていました。お恥ずかしい話、これまで私は、あれほど強い殺意を受けたことが無かったのです」

「ふむ」

 重蔵は腰を下ろし、晴奈に座るよう促す。

「まあ、今までの経験から言うとじゃな」

「はい」

 座り込み、同じ目線にいる晴奈をじっと見て、重蔵は言葉を続ける。

「晴さんみたいに、自分を呼び出した者は、滅多におらんのじゃ。

 呼び出した者は例外なく、若くして才能を開花させ、道を極めた者。そう言う者ほど、自分に自信を持っておるのじゃろうな」

「はあ……」

「正直な話、わしが試験を受けることを促した時、『自分にはその資格がある』と思ったじゃろ?」

「……」

 心中を言い当てられ、晴奈は顔を赤くしてうなずく。

「そんな者ほど、当然過ぎるほど当然のことに、気付かん。『敵を倒す時は逆に、倒されることもある』、と言うことにな。それが分からん者は、修羅になりやすい。さっきも言うたが、剣士としてそこに身を置くことは、何よりも悪い罪じゃ」

 罪、と聞いて晴奈の心がまた痛む。先ほど感じた罪悪感が、思い出されてきた。

「自分と向かい合った時に感じたそれを、よく覚えておきなさい。修羅の道に足を踏み入れそうになった時、それを思い出せば、思い止まることができるじゃろう」

「はい……」

 晴奈は重蔵の言葉を、心に深く刻みつけた。

 

 重蔵は懐から巻物を取り出し、晴奈の眼前で紐解き、開く。

「これは、焔流剣術の始まりからずっと書き連ねておる、免許皆伝の書じゃ。

 ほれ、この端。『焔玄蔵』と書かれておるじゃろ。これこそが我らの開祖、『焔剣仙』玄蔵。そしてその後に、おびただしい数の名前が連なっておる。これらは皆、焔流を極めし者。免許皆伝の証を得た者たちじゃ。

 そして今日、玄蔵と反対側の端に。黄晴奈の名を、連ねよう」

 重蔵は指差した箇所に晴奈の名を書き、晴奈の手を取って、拇印を押させた。

「おめでとう。これより晴さんは、焔流免許皆伝を名乗ってよろしい」

「……」

 晴奈は何か、礼を言おうとしたが、言葉にならない。ばっと体を伏せ、重蔵の前で深々と、頭を下げた。

 

 

 

 こうして双月暦512年の秋、晴奈は焔流免許皆伝と言う、最大・最高級の剣士の称号を得た。同時に紅蓮塞での地位も急激に上がり、指導に回ることも多くなった。

 だが、晴奈はこの現状に満足しなかった。いくら強くなっても、強くなったと言う証明を得ても――。

(明奈を救い出せなくて、何が免許皆伝だ)

 いつか明奈が、無事に帰ってくるまでは、……と。

 晴奈は救い出す機を待ち、黙々と修行に励んでいた。

 

蒼天剣・烈士録 終

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